言葉の意味・由来

聖書「機にかないて語る言葉は銀の彫刻物に金の林檎を嵌めたるが如し」の意味

聖書「機にかないて語る言葉は銀の彫刻物に金の林檎を嵌めたるが如し」の意味

太宰治の『斜陽』第二章のかず子の火事未遂後のシーンでは、聖書の一節として、「おりにかないて語ることばは銀の彫刻物ほりものに金の林檎をめたるが如し」という言葉が引用されます。

しばらくしてお母さまが、
「なんでもない事だったのね。燃やすための薪だもの」
とおっしゃった。

私は急に楽しくなって、ふふんと笑った。おりにかないてかたことばぎん彫刻物ほりものきん林檎りんごめたるがごとし、という聖書の箴言しんげんを思い出し、こんな優しいお母さまを持っている自分の幸福を、つくづく神さまに感謝した。

ゆうべの事は、ゆうべの事。もうくよくよすまい、と思って、私は支那間の硝子戸越しに、朝の伊豆の海をながめ、いつまでもお母さまのうしろに立っていて、おしまいにはお母さまのしずかな呼吸と私の呼吸がぴったり合ってしまった。

出典 : 太宰治『斜陽』

この「機にかないて語る言は銀の彫刻物に金の林檎を嵌めたるが如し」とは、旧約聖書の箴言、第25章11節の言葉です。

冒頭の、「機にかないて」とは、タイミングに適って(ちょうど相応しい)という意味で、全体では、「時宜に適って語られる言葉というのは、まるで銀の彫り物にはめられた金の林檎のようだ。」、要するに、適切な状況やタイミングで発せられる言葉は、とても貴重だ、という意味となります。

逆に、適切なタイミングでなければ、言葉は力を持たない、場合によっては逆効果にさえなる、という風にも言えるでしょう。

太宰治が、愛人の一人であった山崎富栄に、聖書ではどんな言葉を覚えているか、と問いかけた際に、彼女が答えた一節だったようです。

聖書ではどんな言葉を覚えていらっしゃいますか、の問いに答えて私は次のように答えた。「機にかなって語る言葉は銀の彫刻物に金の林檎りんごめたるが如し」。「吾子よ我ら言葉もて相愛することなく、行為と真実とをもてすべし」。

新聞社の青年と、今野さんと私とでお話したとき、情熱的に語る先生と、青年の真剣な御様子と、思想の確固さ。そして道理的なこと。人間としたら、そうるべき道の数々。何か、私の一番弱いところ、真綿でそっと包んででもおいたものを、鋭利なナイフで切り開かれたような気持ちがして涙ぐんでしまった。

戦闘、開始! 覚悟をしなければならない。私は先生を敬愛する。

出典 : 山崎富栄『雨の玉川心中 太宰治との愛と死のノート』