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『3月のライオン』タイトルの意味─気候を表すイギリスのことわざ

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『3月のライオン』タイトルの意味─気候を表すイギリスのことわざ

漫画家・羽海野チカのペンネームの由来

羽海野チカ『3月のライオン』〈1〉

羽海野チカさんは、美大をテーマにした青春漫画『ハチミツとクローバー(通称ハチクロ)』で知られる漫画家です。

ハチクロは、デビュー作ながら、漫画作品にとどまらず、アニメ化、映画化、ドラマ化も実現します。

羽海野チカさんは、本名は非公開で、東京都出身の1965年生まれ。「羽海野チカ」という一風変わったペンネームは、昔描いた読み切り作品『海の近くの遊園地』というタイトルに由来します。

羽海野さんは、遊園地自体、もともと好きだったようです。

ペンネームの最初に「羽」という漢字を持ってきた理由は、画家のパウル・クレーの代表作でもある『忘れっぽい天使』。

そのクレーの絵のコピーに、羽海野さんが鉛筆で海とふわふわの雪の絵を描き足して貼っていた際に、「羽」と「海」が似合うと感じたことに由来するそうです。

パウル・クレー『忘れっぽい天使』 1939年

羽海野さんは、都立工芸高等学校のデザイン科に入学し、卒業後は、大学進学ではなくサンリオに就職。キャラクターのデザインをしながら、勤務外で同人活動もします。

その後、独立してフリーでキャラクターデザインなどを手がけながら、コミケに参加するなど漫画家への夢も諦めずに活動。

あるとき、偶然、『CUTiE Comic』へのカット絵の仕事を依頼された際にネームを見せたことから、『ハチミツとクローバー』でのデビューが決まり、初連載となります。

そのハチクロが爆発的な人気となり、多くの人々のもとに届く代表作となります。

ハチクロの最終回ののち、長編漫画二作目として描いた作品が、『3月のライオン』です。

『3月のライオン』のタイトルの意味

羽海野さんの長編二作目『3月のライオン』は、家族を幼い頃に失い、15歳でプロ棋士となった桐山れいくんが主人公の将棋漫画です。

ハチクロ同様、3月のライオンも、アニメ化や実写映画化がされ、実写版3月のライオンでは、主人公の桐山零くん役を俳優の神木隆之介さんが演じ、零くんとイメージがぴったりと話題になります。



漫画のタイトルに使われている、「3月」と「ライオン」という一見すると関係がないように思える二つの単語。

タイトルのきっかけとなったのは、1992年に公開された、矢崎仁司監督の実写映画『三月のライオン』のポスターです。

羽海野チカさんは、実写映画『三月のライオン』のポスターに写った、おかっぱ頭の女性がアイスをくわえている写真が印象に残り、そのときにタイトルの「三月のライオン」という言葉も一緒に記憶に残ったと言います。

矢崎仁司『三月のライオン』

この『三月のライオン』とは、イギリスの気候に関する、「3月はライオンのように訪れ、穏やかな子羊のように去る(March comes in like a lion, and goes out like a lamb.)」ということわざに由来します。

春先の3月の初めは荒々しい天気となり、最後は穏やかに春へと移っていく、という意味です。

映画は観てないんですが、そのポスターが好きだったんですね、すごく。

おかっぱの女の子が食べかけのアイスをくわえているポスターで、その表情がまたすごくよかったんですよ。

それでその映画は観てないんですが、タイトルは頭に残っていて。イギリスのことわざなんですよね、これ。3月はライオンのようにやってきて、子羊のように去る。

物語がつくれそうな言葉だなとずっと思っていたタイトルです。(羽海野チカ)

出典:ダヴィンチ 2008/04月号

羽海野チカさんは、当時この『三月のライオン』という映画を観たことがなく、そのため、映画と漫画に直接の関係はないようです。

しかし、この言葉が一つの印象として残り、物語がつくれそうだ、という風に思っていたそうです。

羽海野さんの3月のライオンも、タイトルのすぐそばに小さくサブタイトルとして「March comes in like a lion」と書かれています。

漢字と数字で違うのは、同名のタイトルを使えないといった事情もあったのかもしれません。

また、もう一つ、『3月のライオン』というタイトルに隠された意味として、これは公式情報ではありませんが、プロの将棋の順位戦(リーグ戦)の最終局が「3月」である、ということもあるのかもしれません。

3月になると棋士たちは「ライオン」のように燃え上がると、3月のライオンの将棋監修を担当する先崎学棋士がコラムで解説しています。

順位戦は六月に始まり、月1局ずつ、三月までかけてやります。三月の最終局に昇給(降級)をかけた棋士は、この漫画のタイトル通り、ライオンになるのです。

出典 : 羽海野チカ『3月のライオン〈2〉』

これが、実際に羽海野チカさんが連載を始める前にタイトルに込めていた意味かどうかは分かりません。

ハチクロが物語の結末にその意味が繋がっていったように、もしかしたらラストシーンに向かって、今後なぜタイトルが「3月のライオン」なのか、ということも見えてくるのかもしれません。