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邦画

『リバーズエッジ』で猫を殺した犯人

『リバーズエッジ』で猫を殺した犯人

岡崎京子さん原作の映画『リバーズエッジ』では、主人公の若草ハルナ(二階堂ふみ)と山田一郎(吉沢亮)が可愛がっている猫たちが描かれるシーンがあります。

猫は、三匹の子猫で、学校の裏庭に棲みつき、ときおり山田とハルナが餌を与えにいきます。

しかし、映画の中盤、猫たちが殺されている、という生々しい現実を突きつけられるシーンが入ります。

ビニール袋に入れられた猫の死骸を、吉川こずえ(SUMIRE)が見つけ、二人が可愛がっていた猫と知らずに、喜んでくれると思って、ハルナに見せるのですが、ハルナは、袋の中身を見て、思わず嘔吐して泣き、こずえはびっくりして励ますように抱きしめます。

山田が、「宝物」として、ハルナとこずえにだけ見せた、河原に放置された人間の白骨死体。この作品では、「死」が重要なテーマであり、その死体が救いの象徴になっています。

だからこそ、こずえも、気軽な気持ちでハルナに猫の死骸を見せようと思ったのでしょう。

人間の死体を見たときのハルナには、目の前の死体が、現実感を持っていなかったのかもしれません。

一方で、可愛がっていた猫の死骸は、ハルナにとって、途端に生々しい命として襲いかかり、嘔吐し、泣きじゃくります。

動画 : 映画『リバーズ・エッジ』本予告

映画では、この猫を殺した犯人というのは誰か描かれていません。

この一つ前のシーンで、ハルナは、「お前なんか死んでしまえばいい」と大量に書かれた差出人不明の手紙を受け取っています。

物語の流れからすると、この手紙の差出人も、猫を殺した犯人も、山田の恋人の田島カンナ(森川葵)のように映ります。

手紙の差出人は、たぶんカンナで、猫の犯人も、映画版の解釈としては、カンナが犯人であるように見せる演出的な意図があったのかもしれません。

ただ、原作の漫画版『リバーズエッジ』を読むと、こずえのファンの同級生らしい端役の男子が、猫を虐待するシーンが描かれています。

二人の男子は、こずえにサインを求め、断られた苛立ちから、偶然見つけた子猫をビニール袋に入れて蹴飛ばすので、直接的には描かれていませんが、恐らく彼らが犯人なのでしょう。

山田は、映画でも漫画でも、猫が殺された事実を知りません。

ハルナは、映画版だと心情は語られませんが、漫画では、猫の死骸を目の当たりにしたときの心情がモノローグとして綴られています。

吉川こずえが
見せてくれた
“面白いもの”は
コンビニの袋につめられ
ミートボールのようになった
こねこの死体だった

あたしと山田君が
ミルクやエサをあげていた

あのこねこたちの死体だった

あたしは吐いたあと泣いた

ものすごく泣いた

ママとパパが別れる時よりも
おじいちゃんおばあちゃんが
死んじゃった時よりも

吐くように泣いた

あのこねこ達は
もうこの世にいないのだ

出典 : 岡崎京子『リバーズエッジ』

このあと、お弁当のなかに肉料理が入っていたことから、再びハルナは嘔吐します。

スーパーマーケットのスライスされた肉たちは、本当に生きていて、牛や豚や鶏の形をしていたのだろうか、とハルナは思います。

もしかしたら、近くの工場でつくられているのではないか、そのほうがいい、そのほうがほっとする、と。

生きているものは死ぬ、そして、死んだものが、肉として目の前にあり、その肉はかつて生きていたものでもある。

ミートボールのようだった、という感想と、その後のシーンは、ハルナにとって「命」の境界線が揺さぶられたことを意味しているのかもしれません。