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漫画

ハチクロの結末とその後

ハチクロの結末とその後 *ネタバレを含みます。

ハチクロ

羽海野チカさんの漫画『ハチミツとクローバー』(通称「ハチクロ」)は、2000年から2006年にかけて連載されていた、美大を舞台にした青春漫画で、アニメや映画にもなっています。

それぞれの登場人物たちの片思いという恋愛の要素と、美術というものに取り憑かれているはぐみという両面が、物語の軸として進み、漫画は単行本で全10巻になります。

美大はこんな雰囲気ではないという声もありますが、友達がいなかった作者の羽海野チカさんにとって、こうだったらよかったな、という当時の妄想が、作品の世界観に繋がっているようです。

最終回においては、タイトルの「ハチミツとクローバー」の意味が、ラストで一つに結実します。

また、決して主人公の竹本くんにとってはハッピーエンドではないかもしれないものの、それでも、はぐちゃんとの恋の結末を泣きながら肯定する、という最後のシーンには、胸打たれるものがあります。

以下、ざっくりと、ハチクロの10巻の結末に向かっていく展開を紹介したいと思います。

結末

まず、ずっとはぐちゃんのことを好きだった、竹本くんと森田さんだったものの、怪我をしたはぐちゃんは、花本修司先生と一緒に生きることを選び、竹本くんと森田さんは、はぐちゃんのことを諦めることになります。

主人公の竹本くんは、割と平凡な学生として描かれ、先輩の森田さんは、破天荒な天才という特徴を備えています。

芸術的な感性で通じ合っているはぐちゃんと森田さんは、「一緒にあがこう」という約束をし、森田さんはピーターの会社へ。

また、ハチクロでは、竹本くん及び森田さんとはぐちゃんの恋愛模様以外に、同じく友人の山田あゆみたちの片思いも描かれ、山田さんは、同級生の真山に片思いだったものの叶わず、真山も原田リカに片思いをしています。

しかし、真山の仕事先の先輩である野宮さんが、山田さんに真っ直ぐ、「一緒にいよう」と告白し、山田さんと野宮さんは、二人の道を歩き出します。

竹本くんは、大学を卒業後、盛岡に就職します。

その盛岡への出発の日、新幹線に乗ろうとしたとき、はぐちゃんが現れ、竹本くんに手渡したのは、サンドイッチです。

新幹線に乗りながら、竹本くんが、そのサンドイッチを食べようとパンの中身を見ると、蜂蜜のなかに四つ葉のクローバーが入っています。

サンドイッチをめくるたびに、四つ葉のクローバーが、何枚も、何枚も。

オレはずっと考えてたんだ
うまく行かなかった恋に 意味はあるのかって

消えて行ってしまうものは
無かったものと同じなのかって…

今ならわかる
意味はある

あったんだよ ここに

出典 : 羽海野チカ『ハチミツとクローバー』

竹本くんの大学生活のなかでの片思いは、無意味で無駄なものだったのか。片思いは、意味がない時間だったのか。

しかし、叶わなかった恋の日々に、かけがえのない思い出と、意味を見出す竹本くん。

その象徴として描かれる、はぐちゃんが探してくれた、四葉のクローバーのサンドイッチ、という風にして物語は結末を迎えます。

羽海野チカ『ハチミツとクローバー』10巻

タイトルの「ハチミツとクローバー」は、羽海野チカさんが好きだったスピッツの『ハチミツ』と、スガシカオさんの『Clover』に由来し、この曲を、物語の骨格を考えているあいだ、ずっと聴き続けていたそうです。

ハチクロの結末は、個人的には好きな終わり方で、特に違和感はないのですが、一方で、「納得がいかない」「気持ち悪い」といった否定的な声もあります。

この結末を気持ち悪いと捉える理由としては、これまでずっとはぐちゃんの恋愛に関しては竹本くんと森田さんが主軸だったのに、突然、父親的な存在で、親戚でもある花本先生と一緒になる、という展開に対する違和感が大きいようです。

はぐちゃんの側も、花本先生に対して恋愛感情があるわけではなく、自分の芸術のために花本先生が必要だから彼を選んだ、という点に違和感を持っているという意見も見られます。

花本先生は、年齢が30代で、はぐちゃんが20歳くらいと歳の差もあり、もともとはぐちゃんを我が子のように溺愛し、またはぐちゃんが怪我で重傷を負ったことに、その面倒を見たい、という思いもあったことから、自分の全てを費やそうとするものの、恋愛的な側面は、ほとんど表に出てきたことはなく、それでも「好きだ」と言うので、いつから恋になったのかは確かによく分かりません。

そのため、純粋に「恋愛」ということを主軸にした視点から言えば、すっきりしない結末という見方もできるのかもしれません。

ただ、はぐちゃんにとっては、安心して、自分の表現を追求したい、という気持ちも強かったのでしょう。

この辺りは難しく、あの結末になんの違和感もない、という人もいれば、気持ち悪さが残る、という人もいるなど、それぞれの捉え方で意見や感想は分かれるようです。

その後(スピンオフ)

このハチクロの結末には、実は続きとして、登場人物たちの“その後”が描かれたスピンオフがあり、タイトルは、『やさしい風』と『君は僕のたからもの』です。

ハチクロのスピンオフは、単行本未収録で、ハチクロの最終回のあとの山田さんと野宮さん二人の“その後”が物語の中心となっています。

以下は、両方のスピンオフに関して、ネタバレありでざっくりとあらすじを紹介したいと思います。

『やさしい風』

まず、『やさしい風』の話の舞台は、浜田山商店街です。

サマーセールの準備をしている商店街に、無料のカレーサービス券を持った野宮さんや真山さんら藤原デザイン事務所の面々が姿を見せます。

その無料カレーは、山田さんのお手製。山田さんの料理と言えば、マズイことで知られています。

真山さんが、野宮さんに、「そろそろ真実を言ってあげてください、野宮さん“彼氏”でしょ」と言うと、野宮さんは、「俺”彼氏”なの? まだ何もさせてもらってないのに」とぶつくさ言いながら、勢いよくカレーを頬張ります。

キラキラした眼差しで料理の感想を待っている山田さんに、野宮さんは、ごくりと飲み込んで一言、「……うまいです」と言います。

この強い信念を目の当たりにし、山田さんに憧れていた商店街の男たちは、野宮さんの山田さんに対する想いの本気度を知ります。

セール後、すっかり酒に溺れた商店街の男たちを、一人介抱する一平さん。

密かにずっと山田さんに片思いをしながら支えてきた一平さんは、その気持ちをアキおばさんに見抜かれ、おばさんは、一平さんに、「ありがとね、アンタの〈でっかい心〉のおかげで、うちのバカ姪はこの商店街で呑気にやってこれたんだよ」と語りかけます。

そして、アキおばさんは、高円寺商店街の看板娘、ケーキ屋スワンのさくらさんとの縁談を一平さんに勧めます。

そのあと、一平さんとさくらさんの二人はお見合いをするのですが、お見合いの席で早々、さくらさんは、高円寺商店街と父の店「スワン」が大切で離れられないから、と頭を下げて断ります。

しかし、一平さんは、自分も浜田山商店街が好きだから、その想いに賛同する、と告げ、それぞれの店を存続したまま、お互いのお店にパンとケーキを半分ずつ並べるという形にし、無事、二人は結婚することになります。

二人の結婚式を、商店街の男衆や山田さんが祝福し、物語は終わります。

『君は僕のたからもの』

一方の、『君は僕のたからもの』は、完全に山田さんと野宮さんの二人がメインのお話です。

読む順番としても、『やさしい風』のあとに、『君は僕のたからもの』というのが読みやすいでしょう。

この話の舞台は、藤原デザイン事務所です。

藤原デザイン事務所で、スペインに行っている真山さんとリカさんのこと(真山さんがリカさんに怖いくらい一途であること)について話していたら、いつの間にか、山田さんが隣で聞き耳を立て、落ち込んだようにうなだれます。

野宮さんは、まだ少し引きずっている山田さんを連れ、外で散歩をしながら、じゃれ合うように二人で会話をします。

野宮さんは、山田さんをからかったりしたときに、山田さんが「全部カオに出ちゃうトコ」が好きでした。

そして、その山田さんが、野宮さんからすれば、自分がこれまで一生懸命脱ぎ捨ててきた青臭い「青春スーツ」を相変わらず着たままの真山のことを愛している、ということに気づいたとき、野宮さんは思います。

ああ、この娘だったら、あの頃のままのオレでも受け入れてくれたのかな、と。

その後、ある日曜日に、山田さんの連れ添いで学校に行った野宮さんと山田さんは、二人で花本先生とはぐちゃんの様子を語ります。

はぐちゃんはリハビリを頑張り、徐々に手も動くようになり、花本先生とはぐちゃんは、駅から少し遠めの古くて天井の高い一軒家に引っ越し、新しい場所で絵を描いています。

山田さんも、場所がないから講座のアシスタントとして学校の釜を使わせてもらっていて助かる、という話をすると、野宮さんが、「ウチの田舎来れば?」と言います。

実家は長野県で、中央自動車道で3時間。実家の裏がじーちゃんの山だから登り窯がつくれるし、いい土も採れるよ。週末だけ長野でもいいなあ、オレはパソコンさえあれば仕事はできるし、と野宮さんは言います。

そして、「どうせなら、建てちゃったほうがいいかな、家を」という野宮さんの言葉に、「家?」と山田さん。

頭に「ハテナ」がたくさんついた山田さんの「家って?」の問いかけに、野宮さんが一言、「君と僕のですが」と告げます。

顔が真っ赤になってあたふたする山田さんに、野宮さんは優しい微笑みを浮かべながら、「ほんとにカオに出るな、君は」と言います。

見ててほんとあきない。うん、多分一生あきないな、と野宮さんは思います。

二つのスピンオフの解説

まず、『やさしい風』は、一平さんの密かに山田さんに抱いていた想いがなにより切ない物語です。

山田さんが、もし頼りきっていた一平さんから求婚されていたら、山田さんにとっては逃げ場所がなかったかもしれません。

一平さんという存在があったから、山田さんが、安心して真山さんや野宮さんに恋をすることができたのだとすれば、一平さんは、山田さんに愛情を抱いていたからこそ「気持ちを告げない」という選択を取ったのであり、それが、アキおばさんの言葉にも繋がっているのでしょう。

その決断に、一平さんの山田さんに対する、恋以上の深い「愛」が伝わってきます。

もう一つの番外編である、『君は僕のたからもの』では、野宮さんの山田さんへの想いが描かれています。

山田さんの「全部顔に出ちゃうトコ」が好きな野宮さん。野宮さんは、色々と思考をめぐらせ、顔に出さないタイプなので、むしろ山田さんとは真逆のタイプと言えます。

また、自分のなかの「青春スーツ」をせっかく恥ずかしいからと脱ぎ捨ててきたのに、山田さんは、その青春スーツを着たままの真山さんを好きになります。

野宮さんにとって山田さんは自分と真逆で、また、野宮さんにとって真山さんは、自分が乗り越えたと思っていた過去です。

その両者に影響を受け、徐々に変わっていく野宮さんの、なんとも言えない素直さも魅力的な作品です。

山田さんと野宮さんの結婚

このスピンオフ以外にも、羽海野チカさんの次回作であった『3月のライオン』の単行本14巻には、さらに“その後”のハチクロのメンバーの様子が描かれています。

舞台は、『3月のライオン』で主人公の零くんが通っている高校の先生たちが出場する将棋の職団戦で、その大会に、ハチクロの藤原デザインのチームも出場し、両チームが対戦することになります。

その藤原デザインチームとして、野宮さんと真山さん、花本先生が参加(竹本くんと森田さんはいません)し、そのワンシーンで、今のハチクロの面々の近況も語られます。

野宮さんは、山田さんのことを「新婚」「可愛いヨメ」と言っていることから、野宮さんと山田さんが、その後、結婚したことが分かります。

;羽海野チカ『3月のライオン』 14巻

真山さんとリカさん、花本先生とはぐちゃんも、結婚はしていないものの、真山さんはリカさんのことを「彼女」と言い、野宮さんも、はぐちゃんのことを、花本先生の「彼女」と言っています。

どうやら、あのハチクロの最終回の“その後”、それぞれが恋人関係になっている優しい未来が待っているようです。

ただ、竹本くんと森田さんのその後については、描写がありません。

ちなみに、巻末のあとがき漫画では、なぜ『ハチクロ』のメンバーが『3月のライオン』に登場したかという理由も語られています。

以上、ハチクロの結末と、その後でした。