久しからずの意味
現代では、普段まず見聞きすることがない、日本語の古い表現に、「久しからず」という用語があります。
現代語訳すれば、「長くは続かない」という意味です。
もともと、「久しい」という言葉が、「長い時間が経っている、行く末が長い」という意味で、「久しい」の否定形に当たるので、「久しからず」とは、「長くは続かない」となります。
この表現が使われている例文として有名なのは、『平家物語』の冒頭部分の一節、「おごれる人も久しからず、ただ春の夜の夢のごとし」です。
これは、地位や権力に驕り高ぶった者も、長く続くことはなく、まるで春の夜の夢のように儚いものだ、という無常観を表した文章です。
今どんなに権力を握り、あるいは権威を持ち、偉そうに驕っていても、いずれは春の夜の夢のように儚く終わっていくでしょう、ということです。
また、この『平家物語』の一節に由来し、「驕る平家は久しからず」ということわざもあります。
このことわざは、「地位や財力を鼻にかけ、驕り高ぶる者は、その身を長く保つことができない」という意味で、勝利や成功への戒めの際にも使われます。
現代で、「久しからず」という言葉が使われるとしたら、このことわざに関連した場面くらいではないでしょうか。
ただし、調べてみると、『平家物語』のような相当昔の古典だけでなく、日本の昭和の文章でも、ときおり「久しからずして」という表現が出てきます。
それから久しからずして田舎の人口がいっぱいになって溢れる時代が来た。
出典 : 柳田国男『家の話』
小さな黒は勝気な犬で、縁代の下なぞ白の自由に動けぬ処にもぐり込んで、其処から白に敵対して吠えた。然し両雄並び立たず、黒は足が悪くなり、久しからずして死んだ。
出典 : 徳冨蘆花『みみずのたはこと』
文脈からも類推するに、「久しからずして」とは、「まもなくして」や、「それほど長くは続かずに」といった意味なのでしょう。
