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日本近現代文学

村上春樹『風の歌を聴け』の冒頭

村上春樹『風の歌を聴け』の冒頭

〈原著〉

「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」

〈英語訳〉

“There’s no such thing as perfect writing, just like there’s no such thing as perfect despair.”

概要

小説『風の歌を聴け』は、1979年に出版された作家村上春樹のデビュー作です。

20代の頃、ジャズ喫茶を営んでいた村上春樹は、プロ野球の観戦中、突如「小説を書こう」と思い立ちます。それは、一回の裏にヤクルトの先頭打者デイブ・ヒルトンが二塁打を打った瞬間のことでした。

ジャズ喫茶を運営しながら、真夜中に一時間ずつ、4ヶ月で小説を書き上げ、応募。群像新人文学賞を受賞。過去一度も小説は書いたことがなく、この『風の歌を聴け』の冒頭は、作家、村上春樹の冒頭文でもあります。

この小説について、村上春樹自身、冒頭部分が特に気に入っていて、小説を書く意味を見失ったときにはこの冒頭を思い出し勇気付けられる、とインタビューで語っています。

登場人物は、「僕」「鼠」「ジェイ」「小指のない女の子」など名前がなかったり不思議な夢の世界のような名前の人物が多く、物語は20代最後の年を迎える主人公の「僕」が大学生だった頃の話です。

そして、冒頭のこの「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね」という印象的な台詞は、「僕」が大学生の頃に偶然知り合ったある作家の言葉です。

これは「言葉」というものの限界を示した台詞で、この少しあとには「僕」の独白として、「例えば像について何かが書けたとしても、象使いについては何も書けないかもしれない。そういうことだ」と続きます。

作中、「僕」はそのジレンマを8年間抱え続けたとあり、これは作家自身の内心の吐露でもあったのかもしれません。

参考
村上春樹、アルフレッド・バーンバウム訳『風の歌を聴け―Hear the wind sing』