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日本古典文学

紀貫之『土佐日記』の冒頭

紀貫之『土佐日記』の冒頭

〈原文〉

男もすなる日記といふものを、女もしてみむとてするなり。

〈現代語訳〉

男のひともするという日記というものを、女の私も試しに書いてみようと思う。

概要

紀貫之 土佐日記菊池容斎「紀貫之」

これは紀貫之(八七二〜九四五)の『土佐日記』の冒頭文で、日本の古典文学のなかでも特に有名な一文です。

冒頭の現代語訳は、「男のひとが書くと聞く日記というものを、女の私も試しに書いてみようと思う」といった意味で、作者の紀貫之は、あえて女性のふりをして「男もすなる日記といふもの」を書こうと試みます。

なぜ、紀貫之はこんな手の込んだ演出をしたのでしょうか。

この『土佐日記』が書かれた平安時代中期には、日記というのは冒頭の一文にあるように男性官人による公務の記録のことであり、漢文で書かれることが一般的でした。

一方のひらがなは、当初女性によって用いられたもので、会話や和歌を描写することに長け(和歌では男性も使用しますが、日記では使いませんでした)、このひらがなの特性を活かした新しい日記文学の形に挑戦してみようという狙いが、紀貫之にあったのではないかと考えられています。

この『土佐日記』は、土佐守(現在の高知県知事に近い役職)の任期を終えた紀貫之が、京都の自宅に着くまでの五五日間の旅を綴った日記文学です。

文章は、「男もすなる」の冒頭文のあと、「それの年の、十二月の二十日あまり一日の日、戌の時に門出す。そのよし、いささかものに書きつく」と続きます。

現代語訳は、「ある年の十二月二十一日午後八時頃に出発する。その旅の様子を少しばかり書きつける」。旅の日記はこうして始まります。

タイトルの『土佐日記』は、英語訳でもそのまま「Tosa Nikki」ないしは「Tosa Diary」と言い、英語版『The Tosa Diary』も出版されています。

以上、紀貫之『土佐日記』の冒頭文でした。

参考
紀貫之、西山秀人編『土佐日記 ビギナーズクラシックス』