セカオワ『Habit』歌詞の意味と解釈
『Habit』の概要
邦楽ロックバンドSEKAI NO OWARI、通称セカオワの大ヒット曲で、アップテンポな曲調と、人間の本質を突く歌詞、そして、曲と絶妙に馴染んでいるMVで披露されるダンスが話題の『Habit』。
リリースは2022年で、映画『ホリック xxxHOLiC』の主題歌として書き下ろしされた曲。監督の蜷川実花さんからは、「今を生きる若者たちへの優しさを込めてほしい」とリクエストがあったそうです。
映画『ホリック xxxHOLiC』予告
映画は、神木隆之介さんや柴咲コウさんが出演し、創作集団「CLAMP」の大ヒットコミック『xxxHOLiC』を実写映画化。あらすじは、以下の通りです。
人の心の闇に寄り憑く“アヤカシ”が見えてしまう男子高校生・四月一日君尋(ワタヌキ・キミヒロ)。その能力のせいで孤独な人生を歩んできた彼は、能力を消し去って普通の生活を送りたいと願っていた。
そんなある日、一匹の蝶に導かれて不思議な“ミセ”にたどり着いた彼は、妖しく美しい女主人・壱原侑子(イチハラ・ユウコ)に出会う。侑子は四月一日のどんな願いでもかなえてくれると言い、その対価として彼の“一番大切なもの”を差し出すよう話す。
侑子のもとで暮らしながらミセを手伝うことになった四月一日は、様々な悩みを抱えた人たちと出会ううちに、思わぬ大事件に巻き込まれていく。
過去、セカオワと蜷川実花さんは、写真作品という形では一緒になったことがあるものの、今度は映画を通してのコラボレーションということで、「普段はあまり見せない一面を表現した」とSEKAI NO OWARIはコメントを発表しています。
その歌詞や曲調はもちろんのこと、MVで披露されたダンスは、「踊ってみた」シリーズなどで話題となり、再生回数も一億を越え、大流行となります。
SEKAI NO OWARI「Habit」
MVの舞台は学校で、Fukaseさんが国語教師、Nakajinさんが体育教師、Saoriさんが保健室の先生、DJ LOVEさんが学校用務員という設定です。
曲の冒頭、ぼんやりした虚ろな表情で廊下を歩くFukaseさんと、踊りながらすれ違っていく学生たち。そして次の瞬間、Fukaseさんも踊り出し、不思議な世界観で、MVは進行します。
教室では、授業が始まってまもなく、教員のFukaseさんと生徒役のダンサーたちが、一緒に踊ります。そのダンスが、激しく、明るく、ユニークで、シュールさもあり、まるで重たい悪夢の世界のようでありながら中毒性もある面白い演出となっています。
この『Habit』の中毒性の高いダンスの振り付けは、3人組のパワーパフボーイズが担当。
それぞれがプロダンサーとして数々の一流アーティストのバックダンサーや振付の経歴を持ち、世界中から人気を集め活躍中のAO・KAN・naotoからなる3人組ボーイズグループ。通称“パワパフ”。2018年結成。
パワーパフボーイズは、自身のYouTubeで、『Habit』のダンスの振り付けを解説した動画もアップしています。
【Habit】セカオワ振付師パワーパフボーイズによる振付解説ぅ〜!!!!!
このダンスとともに印象的で曲の魅力を引き立てているMVを監督したのは、俳優やMV監督で、Saoriさんの夫でもある池田大さんです。
新曲「Habit」は、池田大監督。
夫である彼が、数カ月間ずっとこのMVのことを考え、素敵なものを作り上げてくれました。夫婦で働くことを応援し、支えてくれたメンバー、スタッフ、そして息子と家族たちに感謝です。 pic.twitter.com/KfEybJmNUm
— Saori(SEKAINOOWARI) (@saori_skow) April 30, 2022
池田大さんは、インスタで、『Habit』のMV監督担当の報告の際に、次のようにコメントをしています。
「Habit」MV監督しました。
真面目に狂ってふざけまくって青春した作品です。
メンバーの決めポーズは4歳の息子に「カッコいいポーズたくさんちょうだい」とオーダーして考えてもらいました。
息子いわく「ねぇ、ふがのやつ、もっとかっこいいのあるけど」らしいですが監督としてはこれで満足です。ぜひ観てください。そして踊ってください。
決めのポーズは各々ご自由に。
この『Habit』のMVは、曲とダンスの振り付けと映像の演出と、それぞれが絶妙に重なり合って、一つの作品として素敵な仕上がりとなっています。
CDシングルについては通常盤の他に二つの形態の初回限定盤があり、通常盤のジャケットにある印象的なイラストのデザインは、アーティストの村松佳樹さんが担当しています。
SEKAI NO OWARI『Habit』通常盤デザイン
村松さんは、2017年開催のセカオワのドームツアー『Tarkus』でもイラストを手掛けています。
SEKAI NO OWARI『Habit』写真集盤
SEKAI NO OWARI『Habit』映像盤
初回限定盤は、写真集盤と映像盤とあり、写真集盤は、映画『ホリック xxxHOLiC』の監督でもある写真家の蜷川実花さんがSEKAI NO OWARIを撮り下した、48ページの豪華写真集が付属、映像盤のジャケット写真はフォトグラファーの新田佳一さんが撮影しています。
歌詞の解釈
それでは、『Habit』の歌詞の意味や解釈について紹介したいと思います(参照 : SEKAI NO OWARI『Habit』歌詞全文)。
まず、タイトルの「habit」とは、日本語で「癖」「習慣」「(動植物の)習性」といった意味になります。
歌詞の冒頭、その人間にとっての「習性」として、なんでも「分類したがる」ということを歌います。
君たちったら何でもかんでも
分類、区別、ジャンル分けしたがる
ヒトはなぜか分類したがる
習性があるとかないとか
この世の中2種類の人間がいるとか言う君たちが標的
持ってるヤツとモテないやつとか
ちゃんとやるヤツとヤッてないヤツとか出典 : SEKAI NO OWARI『Habit』
人間は、曖昧な状態に不安を覚え、分類すること(分けること)で分かったような気がしてくる。
でも、分類ということは、分かることであると同時に、理解の限界を留めてしまうことでもあり、もっと奥深くの曖昧で繊細で不明瞭な何か、という部分を取りこぼしてしまうことにも繋がります。
歌詞の続きに、「所詮アンタはギフテッド、アタシは普通の主婦ですと」という一節があります。
ギフテッドとは、「同世代の子供と比較して、突出した知性と精神性を兼ね備えた子供のこと」を意味し、ギフト(贈り物、神様によって与えられた生まれ持った才能)に由来します。
所詮アンタはギフテッド
アタシは普通の主婦ですと
それは良いでしょう?
素晴らしいでしょう?
不可能の証明の完成なんじゃない?出典 : SEKAI NO OWARI『Habit』
この部分の歌詞は、あなたは特別な能力を持っているギフテッドであり、自分は普通の主婦ですと、その「分類」によって、自分は最初からできないと決めつける、「不可能の証明の完成」なんでしょう、それで素晴らしいんでしょう、という意味合いなのではないでしょうか。
言葉の最後に疑問符をつけ、投げかけているということは、皮肉や挑発も込めているのでしょう。
また、「与えられた才能」という一見するともっともらしい事実自体も、「この能力は素晴らしいもの」と誰かが勝手に分類し、価値のあるものと規定しただけであり、結果、自分は現代社会において価値があるとされるその能力を持っていない側と決めつけているのではないか、と。
しかし、だからと言って、よくある応援ソングのように、「夢を諦めるな」というわけでもない、と続きでは歌われます。
要するに、そういう誰かが分類した評価基準に惑わされることなく、分類を超えた自分自身の奥深くにある価値も大切にしてほしい、と訴えかけているのでしょう。
誰かの分類に惑わされない価値
これは『Habit』という楽曲全体を通して流れているメッセージでしょうが、人間には分類するというHabit(習性)があり、その分類の檻のなかに思考も行動も閉じ込められてしまっている。だから、「その習性に喰われないで」「壊して見せろよ そのbad habit」と挑発するように歌います。
ある種の“説教モード”で語る歌であり、だからこそ、2番では、“大人の俺”が「説教するってぶっちゃけ快楽」と言いながら、さらに挑発的に訴えかけます。
分類という檻のなかに若者たちを閉じ込めようとしているのは、今の“大人”かもしれません。その思考の檻のなかで思考停止に陥っていたら、きっと“大人”は楽でしょう。
君たちがその分類された
普通の箱で燻ってるからさ
俺は人生イージーモード
ずっとそこで眠っててアラサー出典 : SEKAI NO OWARI『Habit』
人生イージーモードとは、人生が滞りなく楽に進む、という意味合いの言葉で、分類された“普通の箱”でくすぶり、眠っていたら、“俺=大人”は楽ができるよ、ずっとそこで眠っていてね、と歌います。
アラサーは30歳前後のことを意味し、少なくともこの一節ではその年代の人たちに訴えかけていることが分かります。「アラサー」というのも一つの分類であり、アラサーだからこうすべき、もうできない、という箱のなかで燻って眠っていていいのか、と問いかけているように思います。
愉快なダンスやMVによって中和され、あるいは、相乗効果で不思議な世界観が演出される『Habit』ですが、歌詞の内容自体は、相当過激で、それゆえ若者への愛情の込められたメッセージが載せられていると言えるでしょう。
以上、SEKAI NO OWARI『Habit』の歌詞の意味と解釈でした。