めっきりの意味と語源
今でもときおり使われる言葉に「めっきり」という副詞があります。
めっきり(と)とは、デジタル大辞泉によれば、状態の変化がはっきり感じられるさまや、物事や数量が十分に大きいことを意味します。
めっきりの意味(デジタル大辞泉)
①状態の変化がはっきり感じられるさま。「めっきり(と)涼しくなる」「めっきり(と)老けこむ」
②数量や物事の程度が十分に大きいさま。
ちょっと古めかしい表現のようにも見えますが、まだまだ普段使いされ、手紙やメールなど文章だけでなく、日常の会話でも使用されます。
秋が深まり、冬が近づくなかで、「最近はめっきり寒くなりましたね」と話すこともあれば、年老いた自分を若干自嘲気味に「めっきり老け込んじゃったよ」と言うこともあるでしょう。
文章で「めっきり」を使う場合、基本的にひらがな表記ですが、昔の小説などでは、「滅切り」と漢字表記されることがあります。
ところが、私が如何にか斯うにか取続いて帰らなかったので、両親は独息子を玉なしにしたように歎いて、父の白髪も其時分僅の間に滅切り殖えたと云う。
出典 : 二葉亭四迷『平凡』
ただし、現代では、「めっきり」を漢字で書いている文章は見かけませんし、辞書でもひらがなで掲載されているので、この「滅切り」という字がなぜ使われているのかはわかりません。
さて、このめっきりという表現、必ずしもネガティブというわけではありませんが、たとえば、「めっきり手紙を書かなくなった」「めっきり老け込んだ」「めっきり体が弱ってしまった」という風に、一つのことが減少傾向にあったり勢いが衰えている際に使われることが多い印象を抱きます。
逆に、「めっきり体が強くなった」「めっきり成績が上がった」というようなポジティブな意味合いの言い方は基本見たことがありません。
ただ、辞書を見ても、「めっきり」が、必ずしも「減っていく」ということを意味しているわけでもないようで、これは時代とともに根付いた傾向なのかもしれません。
実際、古い小説の一文としても、めっきりは、勢いがついた際の表現として使われている場合があります。
もし左様だとすれば、心臓から動脈へ出る血が、少しづゝ、後戻りをする難症だから、根治は覚束ないと宣告されたので、平岡も驚ろいて、出来る丈養生に手を尽した所為か、一年許りするうちに、好い案排に、元気が滅切りよくなつた。
出典 : 夏目漱石『それから』
この夏目漱石の小説の一文なども、「元気がめっきりよくなった」と、勢いがついた様として使用されていますし、他にも、「めっきり暑くなった」という用例も過去には見られます。
めつきり暑うなつた、散歩したが物足らないので、酒を借り魚を料理して、樹明君の来庵を待ちくたぶれて、やうやく飲み合つた。
出典 : 種田山頭火『其中日記』
どうやら、用例を見ていると、昔は、めっきりが減少や衰えばかりを指したものではなかったようです。とは言え、用例辞典で「めつきり」と検索してみると、減少や衰えの方向で使われる作品が多く見られるので、割合としては以前から下がっていく方向に使われることが多かったのかもしれません。
それでは、めっきりの語源とは、一体どういったものなのでしょうか。
調べてみたのですが、残念ながら、めっきりの語源について正確なことは分からず、漢字で滅切りと書く由来も不明です。
この「めっきり」の類語として、「めきめき」という表現がありますが、「めきめき」に関しては、「めっきり」と違い、度合いの変化を指す場合、ポジティブなイメージのみで使用されます。
めきめきの意味(デジタル大辞泉)
①目に見えて、進歩・発展するさま。「めきめき(と)腕をあげる」
②物がこわれたり、きしんだりする音を表す語。めりめり。「床がめきめき(と)鳴る」
めっきりと、めきめきは、どちらかが派生語という関係にあるのでしょうか。
オノマトペの辞典によれば、「めきめき」は、「めきりめきり」「めっきり」とも表現し、また「めっき」という言い方もあるそうです。
『日本語オノマトペ辞典』によると、「めきめき」とはものごとの程度が目に見えて進んでいく様のことで、めっきり、めきりめきりとも。ある状態が誰でもわかるほど確定するさまを「めっき」ともいうとか。更なる語源や成り立ちはこれには載ってないですね。
このめきめきに類する「めっきり」や「めきりめきり」は、先の「めっきり」と、どういった関係にあるのでしょうか。
別の辞典で、日本国語大辞典のほうを見ると、めきめきの意味に関し、次のように紹介されています。
① 物がこわれたり、きしんだりする音を表わす語。めりめり。
② きわだって事態が変化したり、目立ってその状態になったりするさまを表わす語。また、目に見えて成長・進歩・発展するさまを表わす語。めっきり。
やはり最後に「めっきり」とあり、めきめきと、めっきりは、基本的に同じ語源であり、ほぼ同じような意味と考えてよいのかもしれません。
冒頭のデジタル大辞泉ではなかったものの、同じく日本国語大辞典で「めっきり」を見ると、こちらにも「板などが、こわれたりきしんだりするさまを表わす語」という意味もあります。
めっきりも、めきめきも、板などが壊れたりきしんだりする様や音を表すと同時に、際立った状態の変化も意味します。
ただ、もし違いを挙げるとすれば、「めっきり」に関しても必ずしもマイナスの意味合いに限ったわけではありませんが、「めきめき」のほうが、特に、成長や進歩のニュアンスが強い、と言えるのではないでしょうか。
これは推測になりますが、「めきめき」という音は、木材などが壊れたりきしんだりする音であるとともに、成長痛のような雰囲気もあり、壊れること、すなわち際立って変化することとともに、成長や進歩に関するニュアンスの強い言葉になっていったのかもしれません。