人間万事塞翁が馬、読み方は「じんかん」か「にんげん」か
座右の銘として挙げる人も少なくない有名なことわざに、「人間万事塞翁が馬」という言葉があります。
このことわざは、人間万事塞翁が馬の由来で解説した通り、「世の中は幸不幸の予想がつかず、よいこともあれば悪いこともある」といった意味で、中国の古い思想書『淮南子』に記された、塞翁の逸話に由来します。
人間万事塞翁が馬の由来となった中国の逸話とは、概ね以下のような内容となっています。
北の砦のほとりに住んでいる老人(塞翁)は、ある日、馬に逃げられる災難に遭います。そのため、人々からも同情されるのですが、まもなくその馬が、別の駿馬を連れて戻ってきます。
駿馬を連れ、戻ってきたことに、これは幸運だと、周囲が祝福します。
しかし、今度は、その駿馬に乗っていた塞翁の息子が落馬し、骨折するという不幸に見舞われます。
周囲の人も、息子が落馬し、骨折するなんて、まったく不幸だ、可哀想に、と思います。
ところが、その後、戦があり、怪我をしていた息子は、戦に行かずに済み、幸運にも命拾いした、という話です。
この逸話のように、「人間万事塞翁が馬」とは、不幸だと思ってもそれが幸せになるかもしれず、幸せだと思ってもそれが不幸になるかもしれず、安易に一喜一憂してはいけない、という意味のことわざです。
さて、このことわざにおいて、特に議論が分かれるのが、「人間」の読み方です。
人間は、素直な読み方としては、「にんげん」であり、その場合「ひと」を意味しますが、一方、これを「じんかん」と読み、「世間、世の中」を指す、という意見もあります。
人間万事塞翁が馬。
人間万事塞翁が馬。
一体、「人間」は、「にんげん」と「じんかん」のどちらが正しい読み方なのでしょうか。
言葉のプロのあいだでも、意見が分かれています。
たとえば、国語辞典の編集者の神永氏は、「人間万事塞翁が馬」の読み方は、「にんげん」であり、「ひと」を意味するものと書いています。
「人間」ということばは「にんげん」と読むか「じんかん」と読むかで厳密には意味が異なる。「にんげん」は「ひと」の意味、「じんかん」だと「世の中、世間」の意味となる。
「人間万事塞翁が馬」は中国古代の哲学書『淮南子』による故事で、ふつうは、人生の吉凶、運不運は予測できないという意味で使われる。なのでやはり「人間」は「ひと」のことであろう。
実際、「じんかんばんじさいおうがうま」と読んでいる例は出会ったことがない。
辞典の編集者の方が、「にんげん」と言うなら、「人間万事塞翁が馬」の「人間」の正しい読み方は、「にんげん」ということなのでしょうか。
加えて言えば、今使っているパソコンで変換する際も、「にんげんばんじさいおうがうま」と打つと、単語が分かれることなく一つの用語として一発変換されます(「じんかんばんじさいおうがうま」だと、それぞれ独立した変換となります)。
一方、読売テレビの元アナウンサーの道浦俊彦氏は、テレビで「人間万事塞翁が馬」という言葉を紹介した際、「じんかん」とナレーターが読んだら、「にんげん」ではないか、という問い合わせを多数受けたそうです。
しかし、道浦氏は、この「人間」の読み方については、次のように綴っています。
たしかに、青島幸男さんの直木賞受賞作、『人間万事塞翁が丙午』では、読み方は「にんげん」でしたし、一般的には「にんげん」の方が通りが良いですね。
しかし、もともとはこれは、「じんかん」と読んだそうです。意味は「ヒューマン」の意味の「にんげん」ではなく、「世間、世の中」という意味です。
この「人間万事塞翁が馬」の「人間」は、いわゆるヒューマンとしての「にんげん」ではなく、「世の中」を意味することから、もともと「じんかん」と読んでいた、という指摘になります。
他にも、「じんかん」という読み方を使っている記事はあり、学校法人履正社の理事長も、「理事長だより」のなかで、「世の中」という意味の使い方から、「じんかん」という読み方を紹介しています。
「人間万事塞翁が馬(じんかんばんじさいおうがうま)」という古代中国の故事があります。この場合の人間(じんかん)とは世の中という意味です。
ここまで読んで分かる通り、「人間万事塞翁が馬」の「人間」の正しい読み方や意味については、未だに議論が分かれ、必ずしも、どちらかが間違いとは断言できない、といった状態のようです。
一般的には、口にしやすく馴染みがある読み方は、「人間」かもしれません。
ただ、一方で、「人間」と読んで「世の中」という意味を採用し、「世の中のあらゆることは塞翁の馬のようだ」という意味合いのほうが、達観しているようで、ことわざの意味と合っている気もしないでもありません。
コトバンクに掲載されている『故事成語を知る辞典』の「人間万事塞翁が馬」のページでは、読み方として、「にんげんばんじさいおうがうま」を採用し、解説欄に、【「人間」を「じんかん」と読み、「世の中の運不運は見極めがたい」という意味だとする解釈もあります】と添えられています。
以上、「人間万事塞翁が馬」の読み方の解説でした。