源実朝〜大海の磯もとどろによする波われて砕けて裂けて散るかも〜意味と解説
〈原文〉
大海の磯もとどろによする波われて砕けて裂けて散るかも
〈現代語訳〉
海岸の磯にとどろくばかりに打ち寄せる波、その荒波が(岩にぶつかって)くだけて、裂けて、(細かなしぶきとなって)散っていることよ。
解説
作者の源実朝は、鎌倉幕府を開いた源頼朝の次男で、建久3年(1192年)に生まれ、建保7年(1219年)に亡くなります。
兄の頼家が追放されたことで、実朝は、12歳という若さで鎌倉幕府の第3代将軍になるものの、28歳のときに甥の公暁によって暗殺されます。
藤原定家に和歌を学んだ歌人としても知られ、家集に『金槐和歌集』があります。
源実朝像(『國文学名家肖像集』より)
この「大海の磯もとどろによする波われて砕けて裂けて散るかも」という和歌は、『金槐和歌集』に収録されている歌です。
写実的な、力強い和歌で、今にも打ち付ける波の情景や音が想起されるようです。
上の句の「磯」というのは、岩や石の多い海岸を指し、「とどろに」とは、「とどろくばかりに」という意味です。
現代語訳すれば、「海岸の磯にとどろくように打ち寄せる波、その荒波が(岩にぶつかって)くだけて、裂けて、(細かなしぶきとなって)散っていることよ」となります。
この和歌の本歌と言われる歌が、『万葉集』収録の笠女郎の「伊勢の海の磯もとどろに寄する波恐き人に恋ひわたるかも」です。
笠女郎が、大伴家持に贈った24首のうちの一つで、現代語訳では、「伊勢の海をとどろかせて寄せてくる波のように、畏怖を抱くほど立派なあなたを恋し続けます」という意味合いの恋の和歌です。