笹井宏之〜えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい〜意味と解説
〈原文〉
えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい
解説
作者の笹井宏之さんは、1982年に佐賀県で生まれ、2009年に亡くなる現代歌人です。笹井宏之はペンネームで、本名は筒井宏之という名前です。
笹井さんは、15歳の頃から病気を患って高校を中退。ネットや新聞投稿で短歌を発表し、その瑞々しい感性で高い評価を受けるも、26歳という若さでインフルエンザがきっかけとなって夭逝します。
笹井さんの歌集としては、『ひとさらい』や『てんとろり』などの他に、死後に刊行された作品集『えーえんとくちから』があります。
この「えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい」という短歌は、作品集のタイトルの由来にもなっている歌で、笹井さんの代表作としても知られています。
不思議なリズムと、一見すると意味の分からない呪文のような言葉の連なり。しかし、読んでいると切なさがこみ上げ、心が締め付けられるような言い得ぬ魅力があります。
果たして、この短歌には、一体どんな意味が込められているのでしょうか。
一つは、冒頭をひらがなにすることによって、「えーえん」が「えーんえーん」という泣き声に見えてくる、という効果があると言えるでしょう。
えーん、えーん、と口から、ずっと泣き止むことのない、それこそ永遠に泣き止まない、そんなニュアンスが漂ってきます。
そして、後半で漢字になることによって姿を現す、「永遠解く力を下さい」という願いの言葉。
えーんえーんと永遠に口からこぼれる悲しみや苦しみを、どうか解くための力をぼくに下さい、という風に解釈できるでしょう。
現代日本を代表する歌人の穂村弘さんは、この「えーえんとくちからえーえんとくちから永遠解く力を下さい」という作品について、次のように解説しています。
口から飛び出した泣き声とも見えた「えーえんとくちから」の正体は「永遠解く力」だった。「永遠」とは寝たきりの状態に縛り付けられた存在の固定感覚、つまり〈私〉の別名ではないだろうか。〈私〉は〈私〉自身を「解く力」を求めていたのでは。
たった一つの意味に縛られる必要はありませんが、難病を患い、生きることも苦しかった作者の祈りのような願いも、この歌には深く込められているのかもしれません。
笹井宏之さんの短歌では、他に、「拾ったら手紙のようで開いたらあなたのようでもう見れません」「ひきがねをひけば小さな花束が飛びだすような明日をください」などがあります。