トトロの語源
『となりのトトロ』とは
アニメ映画で有名な作品の一つと言えば、『となりのトトロ』が挙げられます。
スタジオジブリの代表作で宮崎駿監督作品の『となりのトトロ』は、昭和30年代前半が舞台のファンタジーアニメーション映画です。
公開は1988年で、同じくスタジオジブリの高畑勲監督作品『火垂るの墓』と同時上映。『となりのトトロ』のコピーは、「このへんな生きものは まだ日本にいるのです。たぶん。」でした。
映画公開時、『となりのトトロ』の観客動員数は80万人と、興行的には失敗と言えるものの、キネマ旬報の「日本映画ベストテン」第1位になるなど、日本の映画関係の作品賞を獲得し、高評価を受けます。また、テレビでの放送が繰り返され、高視聴率を記録します。
映画『となりのトトロ』のあらすじをざっくり言うと、昭和30年代の初夏、母親の入院のために、父と一緒に病院の近くの農村に引っ越してきた、小学生のサツキと、幼いメイの姉妹が、「トトロ」という森の不思議な生き物と出会い、そのトトロと姉妹の交流が描かれた物語です。
サツキの年齢は12歳で小学校6年生。メイの年齢は4歳です。名前の由来は、二人とも「五月」です。姉のサツキは、五月を意味する皐月で、漢字で書くと「五月」です。一方のメイは、五月を英語にした際のMayに由来します。
それでは、「トトロ」のほうは、一体なぜ「トトロ」という名前なのでしょうか。
作中では、メイがトトロに名前を尋ねると、トトロ自身が「トトロ」と言ったように聴こえたことから、トトロと呼ばれるようになります。
また、北欧神話に登場する妖精であるトロル(トロール)が由来ではないか、という説もあり、『となりのトトロ』のなかでも、サツキがメイに、「トトロって、絵本に出ていたトロルのこと?」と尋ねるシーンもあります。
このトロルの出ていた絵本というのは、『三びきのやぎのがらんどろん』という本です。
『となりのトトロ』のエンディングロールで、サツキとメイが読んでもらっている絵本
姿の雰囲気的にも、トロールの影響を受けているような印象も抱きますが、ただ、「トロル」がそのまま「トトロ」のモデルになったわけではないようです。
トトロの舞台と意味
トトロの舞台となったのは、埼玉県の所沢市です。
この所沢の魅力に関しては、宮崎監督のインタビューや鈴木敏夫プロデューサーの解説、また、宮崎監督の奥さんの宮崎朱美さんが描く、四季折々の花や草木のスケッチと共に紹介している『トトロの生まれたところ』という本があります。
宮崎駿監修『トトロの生まれたところ』
この本で、『となりのトトロ』のタイトルの由来や、トトロという名前の語源も語られています。
そもそも、最初の案としては、『所沢にいるとなりのおばけ』というタイトルで、この名称が縮んで、『となりのトトロ』になったと鈴木敏夫さんが書いてます。
宮さんという人は、元を正すと、東京のど真ん中で生まれ育ったいわゆる“街っ子”だ。それが結婚を機に、所沢に居を定める。いまから50年くらい前の話だ。そして、家の近くを散策するうちに思いついたのがあの『となりのトトロ』だった。
それが証拠に、最初のタイトルは『所沢にいるとなりのおばけ』で、それが縮んで『となりのトトロ』になった。
出典 : 宮崎駿監修『トトロの生まれたところ』
なぜ縮んだのか、ということに関しては理由は書かれていません。
ただ、「トトロ」の語源というのは、宮崎駿監督の知人の娘が「所沢」を「とろろざわ」と言ったことに由来している、という話があります。
また、当初のアイデアでは、トトロは大中小と存在し、それぞれ「ミミンズク(おおとうさん)」「ズク(とうさん)」「ミン」という名前でした。
画像 :『となりのトトロ』のトトロの名前はトトロじゃなかった! ミミンズク、ズク、ミンとは…
大トトロのミミンズクの年齢は1302才、ズクは679才、ミンは109才、という設定もあります。
「となり」の意味
それでは、トトロに「となりの」という形容詞がつくのは、一体なぜなのでしょうか。
『となりのトトロ』のイメージボード
一見すると、気づいたら隣にいるから『となりのトトロ』のように思うかもしれませんが、実際の由来は違うようです。
隣に来たからではなく、住んだところの隣の山にいる、ということです(宮崎駿)。
出典 : 宮崎駿監修『トトロの生まれたところ』
宮崎監督が住み始めた頃には、すでに開発の始まっていた所沢。
しかし、その「隣」には、まだまだ多くの自然が残されていたことから、となりのトトロというのは、住んでいる場所の隣の豊かな山に存在するおばけ、という意味合いだったようです。
また、この本に掲載された宮崎監督のインタビューを読むかぎり、名前だけでなく、「トトロ」のビジュアルも、「トロール」からイマジネーションを膨らませたわけではないようです。
宮崎駿監督が雑木林を歩いていると、ふと、「誰かがいるような感じ」がしたそうです。
そして、その森の気配は、いつの間にかちゃぶ台に座っているような親しみ深いものでもなく、愛想は振り向かないが、悪意もない、もっと大きな存在としての「おばけ」で、そのとき、イメージの取っ掛かりとして、「爪」が見えた、と言います。
爪は、「ごっつい爪」で、その爪から、さらに想像を膨らませていき、宮崎監督の頭のなかで、トトロは育っていったようです。
中国版トトロ『龍猫』の由来
中国版『となりのトトロ』のポスター
ちなみに、『となりのトトロ』は、2018年、ジブリ作品として初めて中国で劇場公開が行われ、話題となりました。
中国では、これまで外国の映画上映本数が厳しく制限され、ジブリ作品は過去一度も公開されなかったものの、多くの中国人が、DVDや違法ダウンロードで幼い頃に視聴し、ジブリ映画や宮崎駿監督は中国でも人気のようです。
「となりのトトロ」はカルト的な人気を誇る作品にも関わらず、中国ではこれまで上映されていなかった。また、中国は外国映画の上映本数に厳しい制限をかけており、ジブリ作品が公開されるのは今回が初めて。
しかし、多くの中国人はDVDや違法ダウンロードなどで、子どもの頃に視聴しているという。
その『となりのトトロ』の中国版タイトルは『龍猫(龙猫)』で、読み方は「ロンマオ」と言います。
一体なぜ、トトロが「龍猫」なのでしょうか。その由来としては、二つの説があるようです。
①「龍猫」はネコバス
龍猫とは、トトロのことではなくネコバスを指し、トトロは、「多多洛」と言うそうです。
タイトルは『龍猫」となっていますが、龍猫とは猫バスのこと。
確かに、トトロ自身が「トトロ」と言ったことが本来の名前の由来なので、音を変えるわけにはいかないでしょうから、トトロが龍猫(ロンマオ)というわけではないのかもしれません。
②龍猫はチンチラ
また、中国語で、龍猫はチンチラを意味します。
チンチラとは、南米のネズミの一種で、その姿がトトロと似ていることから、題名も『龍猫』になった、という説もあります。
龙猫はもともとチンチラ(chinchilla)という南米のネズミの中国語名ですが、その姿がトトロと酷似していることから香港でトトロが「龙猫」と訳されたのがきっかけだそうです。
そのチンチラをトトロの名シーンに見立てて撮影している飼い主さんもいました。
画像 : あの名シーンを再現…トトロになりきるチンチラがめっちゃ可愛い!
飼い主さんのか(ω)もさんは、この写真を撮影した経緯について、次のように語っています。
トトロのモデルはチンチラという一説があり、チンチラ飼育者の中では「トトロ=チンチラ」だと思っている方が多くいます。実は私もその一人です。
先日たまたま「となりのトトロ」に出てくるこのバス停のミニチュアを手に入れました。
思わずうちにいるトトロ(チンチラ・うに)で、「となりのトトロ」のサツキとメイがトトロと一緒にバス停の隣で父親を待つシーンに見立てて写真を撮影してみました。
そういうわけで、中国版のトトロの題名が『龍猫』になった正確な由来ははっきりとは分かりませんが、これらの説が有力なのではないでしょうか。
以上、『となりのトトロ』の「トトロ」の語源やタイトルの由来でした。