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西洋の画家

ノルウェーの画家キッテルセンの描くトロールの絵

ノルウェーの画家キッテルセンの描くトロールの絵

キッテルセンとは

テオドール・キッテルセン『自画像』 1891年

テオドール・キッテルセン Theodor Kittelsen(1857 – 1914)とは、ノルウェーでもっとも人気のある画家の一人で、自然の風景画や伝説の挿絵、また北欧の伝承に現れる妖精「トロール」の絵が有名です。

キッテルセンは、1857年、ノルウェー南部の沿岸の街で生まれます。父親を早くに亡くし、貧困の家庭で育ったことから、わずか11歳で時計職人に弟子入り。その後、17歳の頃、当時名を馳せていたパトロンのディートリヒ・マリア・オールに芸術の才能を見出され、クリスチャニア(現在のオスロ)やバイエルン(現在のドイツ)のミュンヘン、パリなどで芸術を学びます。

しかし、途中で支援は取り止められ、困窮した生活のなかで芸術の修行を行ったキッテルセン。食べるのにも事欠いた暮らしは、その頃の絵のグロテスクな作風にも影響するものの、1889年、のちの妻となる女性と出会ってからは、キッテルセンの画風も優しくなっていきます。

そして、再びノルウェーに戻ったキッテルセンは、姉妹と、その夫の住むノルウェー北部のロフォーテン諸島で過ごし、恵まれたノルウェーの自然から多くのインスピレーションを得ます。

さらに、1899年、家族でノルウェー南部のブスケルーに移住。アートスタジオで芸術活動に勤しみ、民話の挿絵などの仕事も請け負うようになります。

キッテルセンの性格は、引っ込み思案で、実生活の面では不得手なことも多く、また作品もそれほど高く売れることはありませんでした。しかし、想像力に恵まれた画家で、彼の描く「トロール」も、写実的な風景にすんなり溶け込み、まるで実際に見てきたような存在感があります。

ノルウェーの画家、テオドール・キッテルセンは、1914年1月14日、ノルウェー南部の街で死去。56歳でした。

キッテルセンの絵とトロール

現在のところ、キッテルセンの絵に関する、日本語版の画集は未刊行となっています。ただ、『ノルウェー トロルのふるさと』という絵本では、キッテルセンの描いたトロールが多数掲載されています。

トロールとは、北欧の国々、特にノルウェーの伝承に登場する森の妖精で、様々な姿形のトロールが存在し、変幻自在に変身することもできます。

『ノルウェー トロルのふるさと』 絵 テオドール・キッテルセン

キッテルセンの描くトロールは、一つ目の森の巨人であったり、鼻の長いおばあさんであったり、また美しい白馬に変身することもある幻想的な生き物ばかりです。

キッテルセンが描く、自分の年齢を考えるトロール

変わった特徴を持つトロール。ただ、基本的な性質としては、それほど知恵が高くなく、凶暴で粗野な存在のようで、ノルウェーの人々のあいだでは日常生活で物がなくなると、「トロールのいたずら」と言ったりするようです。

また、同じ北欧でも、地域ごとにトロールの印象は変化し、巨人ではなく小人であったり、幸福をもたらす存在として捉えられることもあります。

以下は、北欧でトロールの伝承がある地域です。

  1. ノルウェー
  2. デンマーク
  3. スカンジナビア半島
  4. フェロー諸島
  5. アイスランド
  6. フィンランド
  7. シェットランド諸島・オークニー諸島

トロールは、多くの芸術作品にもインスピレーションを与え、たとえば、日本でもジブリ作品の『となりのトトロ』のなかでトトロとトロールの関係性を匂わせるシーンもあり、また、世界的な児童文学である『ハリーポッター』にもトロールは登場します。

キッテルセンの描くトロールは、まるで森のなかから生まれ出てきた草花やきのこのように、なんの違和感もなく、自然な風合いで描かれています。

最初に風景画を描き、その舞台にトロールという空想の生き物を加えた、というよりも、トロールが景色そのものと一体化し、調和しているようで、いつかどこかでこういう光景がほんとうにあったのではないか、と想像させてくれます。

そのことを象徴するエピソードを、キッテルセンの9人兄弟の末の息子のヘルゲ・テオドール・キッテルセンが、のちに語っています。

キッテルセンの子供たちは、自分の父親がトロールや森の妖精たちと会ったことがあると信じて疑いませんでした。

キッテルセン自身、他の画家がトロールの絵を描くと、「彼がトロールの絵を描くんだって。トロールを見たこともないくせに!」と気を悪くしたそうです。

キッテルセンにとって、トロールは、それほど身近な、確かなものとして存在していたのでしょう。

ノルウェー国内では人気画家の一人であるキッテルセンですが、世界的にはそれほど知られているわけでもないようです。ただ、以前、Googleでは、キッテルセンの生誕160年を記念し、ロゴがキッテルセンの絵になったこともあります。

Googleの 2017年4月27日のロゴ(波紋がGoogleの文字に)

これはキッテルセンの「水の妖精」を描いた絵をモチーフにしたもので、ノルウェーなど一部の国々(日本含む)で表示されました。

テオドール・キッテルセン『The Water Spirit』 1887年〜1892年

トロールを描いた絵の他にも、童話の世界や白の世界を描いた寂しげな雪の風景画など、幻想的な作品が、キッテルセンの絵の特徴の一つと言えるでしょう。

最後の静かな雪景色の向こうに細い月がぽうっと光っている風景画は、1905年に制作された作品で、タイトルは『New Year’s New Moon』と言います。

以上、ノルウェーの人気画家、テオドール・キッテルセンの作品でした。