印象派の特徴
芸術の世界の用語で、「印象派」という言葉があり、読み方は、「いんしょうは」と言います。
印象派という言葉は耳にしたことがあっても、実際、印象派とはどういった意味で、どんな特徴があり、代表的な画家は誰か、と問われると、なかなか答えが出てこない、という人も少なくないのではないでしょうか。
印象派の作品自体は日本でも人気ですが、美術展に通ったり、美術の授業で興味を持って学ばない限り、意味はよく知らない、ということも珍しくないでしょう。
以下、芸術の用語である「印象派」の意味や特徴に関して、簡単に分かりやすく解説したいと思います。
印象派の歴史
まず、印象派とは、19世紀後半のフランスのパリを中心とした「芸術運動」です。
当時の若い画家たちが起こした革命的な芸術運動や集団が、「印象派」と呼ばれるようになり、印象派の代表的な画家としては、モネやルノワール、シスレーなどがいます。
また、ゴッホ、セザンヌ、ゴーギャンなどは、印象派の影響を受けた「後期印象派」の画家として数えられます。
印象派登場の前、19世紀中頃のフランスの美術界では、神話や宗教、歴史を題材とし理想を表現しようとするロマン主義や古典主義への反動から、空想の世界ではなく、あるがままに現実を再現しようとする、「写実主義」が流行します。
これは、貴族階級ではなく、庶民の生活や価値観に、画家たちが目を向けるようになった、という時代背景もあります。
写実主義の代表的な画家としては、クールベやミレー、ドーミエなどが挙げられます。
ジャン=フランソワ・ミレー『落ち穂拾い』 1857年
写実主義の絵は、歴史的、あるいは神話的な題材の絵のように背景を知らなくても、親しみやすいのではないでしょうか。
この写実主義の影響も受け、若い画家たちによって起こった新しい芸術運動として、「印象派」「印象主義」があります。
よく「印象派の父」と呼ばれる、エドゥアール・マネという画家がいます。
マネは、挑戦的で新しい描き方や題材によって、当時の権威から激しく批判を浴びますが、マネの姿勢や画風が、やがて「印象派」と呼ばれるようになる若い画家たちに大きな影響を及ぼすこととなります。
マネの代表作としては、『草上の昼食』や『オランピア』が挙げられます。
エドゥアール・マネ『草上の昼食』 1862−1863年
マネの描いた裸婦は、神話や歴史上の出来事としての裸の女性ではなく、現実の女性であったことから、画期的であるとともに不道徳だとして批判されます。また、この絵のモチーフが、明らかに「売春婦」であることから、いっそう批判を浴びます。
ただ、マネによる、決して理想化せずに、見た通りに印象を描く、という姿勢は、その後の世代に影響を与えます。
印象派の起源は、1874年に若い画家たちによって開催された、のちに「第1回印象派展」と呼ばれるようになるグループ展です。
この展示会に出品された、クロード・モネの作品『印象・日の出』の名前を、批評家のルイ・ルロワが、皮肉交じりに引用し、「印象派の展覧会」と批判的に書いたことから、「印象派」という名前が定着します。
印象かぁー。確かにわしもそう思った。わしも印象を受けたんだから。つまり、その印象が描かれているというわけだなぁー。だが、何という放漫、何といういい加減さだ! この海の絵よりも作りかけの壁紙の方が、まだよく出来ている位だ。
出典 : ルイ・ルロワ「印象派の展覧会」
その当時は、「印象派」の作品というのは、立派な完成品ではなく、スケッチ感覚で印象が描かれただけのような、未熟な作品だ、と捉えられます。
クロード・モネ『印象・日の出』 1872年
確かに、その頃の完璧な完成品を求める価値観の目で見ていると、ものすごい下手な、「未熟な絵」に見えなくもないのではないでしょうか。
この「印象派展」は、1870年代から80年代にかけ、メンバーが微妙に変わりながら、全8回行われ、その主要メンバーが、「印象派の画家」と呼ばれています。
ただ、「印象派の画家」の明確な定義や境界線が、必ずしも、はっきりしているわけではありません。
印象派の3つの特徴
それでは、この印象派の作品の特徴とは、一体どういったものが挙げられるでしょうか。
印象派の代表的な特徴として、「屋外制作」「筆触分割」「印象を描く」という3つの特徴を紹介したいと思います。
特徴①屋外の制作
印象派の特徴の一つが、外で描くこと、すなわち「屋外制作」にあります。
昔から外で描くこともあったんじゃないの、と思われるかもしれませんが、写実主義以前は、屋外制作は、下書きやデッサンのみでした。
実は、絵の具が問題で、現代ではチューブに入っているのが一般的ですが、18世紀の中頃までは、画家が自ら鉱石を粉砕し、油を混ぜ、絵の具を作っていました。
その後、18世紀末頃からは、豚など動物の膀胱を保存袋にして販売されるようになりますが、長期保存ができず、持ち運びも不便で、色付けについては、外では行われませんでした。
だから、色も含めた完成は、外ではできません。
しかし、保存や持ち運びに適したチューブ入れ絵の具が、1841年に登場し、工場での大量生産も始まったことから、画家たちが街の画材屋で絵の具を手に入れることができるようになり、結果、屋外で絵画を完成させさせることができるようになります。
こうした「近代化」の影響によって、写実主義の一つであるバルビゾン派が屋外に出て制作を開始し、その影響を受け、印象派の屋外制作にも繋がっていきます。
加えて、同時期に、都市部と郊外を結ぶ「鉄道」が徐々に広がり、鉄道を使って郊外に写生に出かけるなど、画家たちのフットワークが、さらに軽くなります。
作品のモチーフも、ダンスホールや劇場、カフェやレストラン、鉄道の駅や郊外の行楽地など、近代都市の市民たちの生活を多く描いている、という特徴が見られるようになります。
特徴②光のための筆触分割
もう一点、印象派の絵画の特徴的な技法として、「筆触分割」が挙げられます。
筆触分割とは、分かりやすく言えば、絵の具を混ぜないで、そのままキャンバスに置いていく、という方法です。
ルネサンス以降の伝統的な描き方では、絵の具は、パレットの上で混ぜ、色を作ってからキャンバスに描きます。
一方、印象派の画家たちは、「絵の具は混ぜることで発色が悪くなる」という特徴をもとに、屋外の繊細な光を捉えるために、チューブから出した絵の具を、短い筆さばきによって、そのままキャンバスに置いていく、という方法を採用します。
後にフェネオンやシニャックのような印象派の理論家たちが強調するように、混合はパレットの上ではなくて網膜の上で行われるのである。
自然を基本的な色に分解し、そのひとつひとつの要素をばらばらに並置して、全体としてまとまった効果をあげるというこの方法が、「筆触分割」にほかならない。
出典 : 高階秀爾『近代絵画史 上』
色の混合は、パレットの上ではなく、網膜の上で行われ、鑑賞者は、まばゆい光の輝きを感受します。
ルノワール『ラ・グルヌイエール』 1869年
印象派の特徴ある光も、この筆触分割という手法によって表現されています。
特徴③「印象」を描く
写実主義までの絵画は、あくまで対象を忠実に描く、客観的な描写に意識が置かれています。
一方、印象派の絵画は、むしろ主観的な、自身の「印象」を忠実に捉える、表現する、という方向に力が注がれている、ということも特徴の一つと言えるでしょう。
その背景には、1839年、フランスの画家のダゲールが公式に発表した「写真」の発明も影響しています。
写真の登場により、肖像画家を筆頭に、現実をそのまま写し取る役割が写真に取って代わられ、画家たちは、新しい世界に進んでいくことを求められます。
ある画家たちは、写真家となり、一方で、写真にできないことをするしかなくなった画家たちは、写実性以上の新しさを模索し、この動きが、「印象」を描く、という方向に繋がっていきます。
ちなみに、1874年の第1回印象派展は、写真家のナダールのスタジオで行われています。
まとめ
屋外で制作し、近代化の進む市民生活に密着したものを多く描き、光を捉えるために筆触分割を活用し、また、画家の「印象」を重視して描く、ということが、主な印象派の特徴と言えるでしょう。
時代の流れを見ると、時代的な背景と全く無縁に印象派が登場したわけではなく、密接に絡み合って生まれた、必然の動きということも言えるかもしれません。
以下は、代表的な印象派の画家たちが残した作品になります。
クロード・モネ『ひなげし』 1873年
オーギュスト・ルノワール『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』 1876年
アルフレッド・シスレー『ヴィルヌーヴ=ラ=ガレンヌの橋』 1872年
ベルト・モリゾ『寓話』 1883年
エドガー・ドガ『ダンスのレッスン』 1873年