〈景品表示法に基づく表記〉当サイトは、記事内に広告を含んでいます。

日本近現代文学

よだかの星のあらすじと用語の意味

よだかの星のあらすじと用語の意味

宮沢賢治『よだかの星』とは

宮沢賢治の代表作の一つに『よだかの星』という童話があります。『よだかの星』は、1921年頃に執筆されたと考えられ、賢治が亡くなった翌年の1934年に発表されます。

作品自体はとても短く、小学校や中学、高校と幅広い世代の国語の教科書で使われていたこともあります(ただし現在ではほとんど使われていません)。

物語の主人公である「よだか」というのは、「夜鷹よたか」という夜行性の鳥のことで、昼間は樹の枝に止まって休み、食べ物は主に昆虫を食します。夜の鷹と書くように、「鷹」という名前が使われていますが、鷹の仲間ではありません。

木の上で休んでいる夜鷹

作品の冒頭、「よだかは、実にみにくい鳥です。」という一文で始まり、最後は、自分の人生を悲しく思ったよだかが、空高くどこまでも飛んでいって星になる、というお話です。

よだかは、実にみにくい鳥です。
顔は、ところどころ、味噌みそをつけたようにまだらで、くちばしは、ひらたくて、耳までさけています。
足は、まるでよぼよぼで、一間いっけんとも歩けません。
ほかの鳥は、もう、よだかの顔を見ただけでも、いやになってしまうという工合ぐあいでした。

出典 : 宮沢賢治『よだかの星』

宮沢賢治の自身に対する罪悪感や、自己犠牲の思想が反映された作品と考えられています。

ちなみに、ヨルシカという二人組バンドの初期の曲『靴の花火』では、歌詞の途中、「僕の食べた物 全てがきっと生への対価だ 今更な僕はヨダカにさえもなれやしない」という一節が入り、ミュージックビデオでも、『よだかの星』の文章が登場します(参照 : ヨルシカ『靴の花火』MV)。

これは、童話のなかで描かれる、生きることへの罪悪感を持ちながら、よだかのように、高く飛翔して、星になるような、そういった選択も今更取れない自分、といったような意味合いなのかもしれません。

それでは、以下、『よだかの星』のあらすじを簡単に紹介したいと思います。

あらすじ

よだかは、醜い鳥で、顔は味噌をつけたようにまだら、くちばしは平たく耳まで裂けています。そのために、他の鳥からも馬鹿にされ、いじめられ、また、鷹からは、おれの名前を使うな、市蔵と名乗れ、改名しないと殺すぞ、と脅しを受けるなどとても酷い扱いを受けます。

悲しくなったよだかは、どこか遠い遠いところへ行ってしまおう、と決意し、兄弟のかわせみや蜂すずめに別れを告げると、空へと旅立ちます。

しかし、「け死んでもかまわないからあなたのところへ連れていってほしい」と太陽にお願いしても断られ、オリオン座やおおいぬ座の星たちにお願いしても相手にされません。

どこにも行けず、悲しみのなかでよだかは、どこまでも高く高く空を飛翔し、やがて青く美しい光を放つ星となります。

用語の意味

昔の作品ということもあり、あまり聞き慣れない用語も出てくるかもしれません。『よだかの星』に出てくる、普段は使わなかったり分かりづらい単語の意味を解説したいと思います。

一間

一間という言葉は、長さを表す言葉です。読み方は「いっけん」で、「間」は日本で古くから使われる長さの単位です。

作中で使われる「一間」の長さは、一尺の6倍で、メートルで言うと、約1.82メートルになります。冒頭、ほんのちょっとも歩けないようなよだかの惨めさが紹介されています。

足は、まるでよぼよぼで、一間いっけんとも歩けません。

出典 : 宮沢賢治『よだかの星』

さもさも

さもさもとは、「さも」の強調した言い方で、「いかにもいかにも」「まったくのところ」という意味です。漢字で書くと、「然も」です。「さも」という言葉は、現代でも割と使われますが、「さもさも」というのは、ほとんど見聞きすることはない表現かもしれません。

しんねり

しんねりとは、「しつこくてねばっこいさま、ねばねばしたさま」「男女がべたべたしているさま、親密なさま」「陰気ではきはきしないさま」という意味です。

関連して、「しんねりむっつり」という表現もあり、この場合は、「陰気ではきはきせずに、無口なさま」を表します。

たとえば、ひばりも、あまり美しい鳥ではありませんが、よだかよりは、ずっと上だと思っていましたので、夕方など、よだかにあうと、さもさもいやそうに、しんねりと目をつぶりながら、首をそっへ向けるのでした。

出典 : 宮沢賢治『よだかの星』

蜂すずめ

蜂すずめとは、ハチドリという鳥の別名です。ハチドリは、主に熱帯、亜熱帯雨林に生息し、最少種だと五センチ程度という、とても小さな鳥で、花の蜜を吸ったり小さな昆虫を捕食します。

よだかの星のなかでは、よだかと蜂すずめとかわせみが兄弟という設定になっていますが、その理由は、当時の分類で見るとそれぞれの鳥が近いグループだったからだと考えられています。

羊歯

羊歯とは、「しだ」と読み、「ワラビ・ウラジロ・ゼンマイなど、羊歯類に属する植物の総称」を意味します。このうち、特にウラジロを指すことが多い言葉です。

ウラジロ

羊歯しだの葉は、よあけのきりを吸って、青くつめたくゆれました。よだかは高くきしきしきしと鳴きました。そして巣の中をきちんとかたづけ、きれいにからだ中のはねや毛をそろえて、また巣から飛び出しました。

出典 : 宮沢賢治『よだかの星』

山焼け

山焼けとは、「山火事や、山が燃えていること」、また、「山の強い日差しを受け、日焼すること」を意味します。

それからにわかによだかは口を大きくひらいて、はねをまっすぐに張って、まるで矢のようにそらをよこぎりました。小さな羽虫が幾匹いくひきも幾匹もその咽喉のどにはいりました。

からだがつちにつくかつかないうちに、よだかはひらりとまたそらへはねあがりました。もう雲は鼠色ねずみいろになり、向うの山には山焼けの火がまっ赤です。

出典 : 宮沢賢治『よだかの星』

大風

大風の読み方は「おおふう」で、「偉ぶって他人を見下すような態度をとること」や「小さいことにこだわらないで、気が大きいこと」を意味します。

読みが「おおふう」だと、傲慢さを指すような意味合いになりますが、「おおかぜ」や「たいふう」では、文字通り、「激しく強い風」を意味します。

もう一度、東から今のぼったあまがわの向う岸のわしの星に叫びました。
「東の白いお星さま、どうか私をあなたの所へ連れてって下さい。やけて死んでもかまいません。」
鷲は大風おおふうに云いました。
「いいや、とてもとても、話にも何にもならん。星になるには、それ相応の身分でなくちゃいかん。又よほど金もいるのだ。」

出典 : 宮沢賢治『よだかの星』

ふいご

ふいごとは、「金属やガラスなどの精錬、加工用に使う簡単な送風装置」のことで、古くから使われた送風装置の一種です。漢字で書くと、「鞴」「吹子」と書きます。鍛冶場でよく使われたようです。

それだのに、ほしの大きさは、さっきと少しも変りません。つくいきはふいごのようです。寒さやしもがまるで剣のようによだかをしました。よだかははねがすっかりしびれてしまいました。そしてなみだぐんだ目をあげてもう一ぺんそらを見ました。そうです。これがよだかの最後でした。

出典 : 宮沢賢治『よだかの星』

燐の火

燐の火、燐火りんかとは、墓地や湿地で自然に発生する青白い火を意味します。人魂や狐火きつねび、鬼火を指すこともあります。

よだかは、最後の最後、燐の火のように美しい光となり、静かに燃え、星になります。

しばらくたってよだかははっきりまなこをひらきました。そして自分のからだがいまりんの火のような青い美しい光になって、しずかに燃えているのを見ました。
すぐとなりは、カシオピア座でした。天の川の青じろいひかりが、すぐうしろになっていました。
そしてよだかの星は燃えつづけました。いつまでもいつまでも燃えつづけました。
今でもまだ燃えています。

出典 : 宮沢賢治『よだかの星』

以上、宮沢賢治の『よだかの星』のあらすじと用語の意味でした。