言葉の意味・由来

夜更けとは何時頃か

夜更けとは何時頃か

クリスマスになると聴こえてくる華やかな音色、飾りとともに聖夜を彩るクリスマスソング。

日本の代表的なクリスマスソングと言えば、山下達郎さんの『クリスマスイブ』が挙げられます。

この曲は、1983年発売の山下達郎さんの12作目のシングル曲で、JR東海のCMなどでも使用されたこともあり、多くの人が一度は耳にしたことがあるのではないでしょうか。

冒頭の「雨は夜更け過ぎに 雪へと変わるだろう」という歌詞が印象的な『クリスマスイブ』。

ところで、この「夜更け過ぎ」という表現、普段あまり使いませんが、そもそも一体何時いつ頃のことを指すのでしょうか。

まず、「夜更け」ですが、この言葉自体、だいたい何時頃といった具体的な定義はありません。

夜が更けると書きますが、「更ける(深ける)」とは、「度合いが深くなる」ことを指し、すなわち「深夜」を意味します。

そのため、「夜更け」と、「深夜」とは、意味に違いはありません。

深夜も、言葉の意味としては、何時という定義はありません(労働基準法では22時から翌朝5時までの労働を、「深夜業」としています)。

明確な時間の定義がないという理由から、「夜更け」や「深夜」という表現は、天気予報の際の公式な言葉としては用いられず(報道では、ざっくりとした時間帯を指す際に使われます)、代わりにもう少し分かりやすい「夜遅く」という言葉を使用します。

この天気予報の用語として使われる「夜遅く」は、21時から24時を意味します。

画像 : 気象庁 天気予報等で用いる用語

その定義で行くと、「夜更け」も、同じように21時〜24時くらいを指すと考えられるかもしれません。

ただ、夜更けや深夜のニュアンスが、21時、22時、と言われると、正直、現代の感覚ではピンと来ないのではないでしょうか。

どちらかと言うと、気象用語で言う「未明みめい(0時〜3時)」のほうが、「夜更け」や「深夜」という捉え方ができるという人もいるかもしれません(参照 : 夜中」「深夜」「未明」は何時ぐらいか?)。

一方、和歌を見ると、たとえば百人一首の「み吉野の山の秋風さ夜ふけてふるさと寒く衣うつなり」や、「やすらはで寝なましものをさ夜ふけてかたぶくくまでの月を見しかな」など、夜が更ける、という表現が古くから使われていることが伺えます。

電気もなく、灯りの少なかった昔は、今よりもずっと夜は長く、まさに深まっていく、という感覚があったのではないでしょうか。

その意味では、「夜更け」や「深夜」と呼ばれる姿も、今とだいぶ違ったことでしょう。

時代が古くなればなるほど、「夜更け」や「深夜」の時間帯も変わってくるでしょうし、また、子供の頃を思い返してみても、夜の22時くらいで、すでにもう深夜といった感覚があったという人も少なくないでしょう。

夜更けがいつ頃か、といった定義は、個人や時代や生活スタイルの感覚に依存すると言えるでしょう。

さて、夜更けの感覚を整理したところで、山下達郎の『クリスマス・イブ』に出てくる「夜更け過ぎ」とは、果たして何時頃のことを指すのでしょうか。

夜更けの終わりが、たとえば、24時くらいだとしたら、「夜更け過ぎ」というのは、24時半くらいかもしれません。

また、もし気象用語で「未明」に当たる、0時〜3時くらいを、夜更けと考えれば、夜更け過ぎは、3時過ぎくらいが該当するでしょう。

この「過ぎ」という解釈も、結構難しく、個人差があり、調査によれば、だいたい15分から一時間くらい過ぎた頃、といった捉え方が多いようです。

「昼過ぎ」という表現がどのように解釈されるのかをめぐって、NHK放送文化研究所ではウェブ上でアンケートをおこないました(1541人回答)。

夜の時点での発言として「○○線は、きょう昼過ぎに運転を再開しました」という言い方をどのようにとらえるかについて意見を尋ねてみたところ、もっとも多かった回答は①「遅くとも午後1時ごろまでには運転を再開したと思う」(33%)で、以下は②「0時15分ごろまでには」(27%)、③「0時30分ごろまでには」(24%)、④「1時30分ごろまでには」(9%)、⑤「0時45分ごろまでには」(4%)、⑥「1時15分ごろまでには」(3%)と続きます。

出典 : NHK放送文化研究所

夜中の3時過ぎを夜更け過ぎとする、この辺りが、遅く見積もった際のぎりぎりの範囲かもしれません。

もう少し朝に近づくと、「夜明け前」という表現のほうが適当になるでしょう。

ただ、歌詞に使うときに、「夜明け前」だと、新しい一日の始まりのニュアンスが強くなるので、「夜更け過ぎ」という表現のほうが、『クリスマスイブ』の歌の悲しげな雰囲気に合っていると言えるかもしれません。

夜更けと、夜明け前のあいだに位置する、「夜更け過ぎ」。

また、具体的に何時と言うよりも、歌詞から解釈するに、夜の延長にありながら、明日の来ない世界、というイメージを膨らませる効果が、「夜更け過ぎ」という言葉には込められているかもしれません。

仮に、「雨は夜明け前に雪へと変わるだろう」という歌の始まりなら、もう「明日」が見えますし、逆に、「雨は夜更け(真夜中)に雪へと変わるだろう」というのも、単なる予報っぽさに繋がりかねません。

もちろん、曲と文字のリズムの兼ね合いもあるのでしょうが、「夜更け過ぎ」というと、夜更けのさらに向こうの世界、というニュアンスが描かれ、夢の世界に入っていくような奥行きが与えられるのではないでしょうか。

夜更けでも、夜明け前でもなく、「夜更け過ぎ」とすることによって、歌われる物語のなかに、時間の世界を越えた空間が立ち上がるように感じられます。

先ほども触れたように、「夜更け」という言葉自体が、時代や年齢、生活などでも変化し、個人差もある感覚的なものなので、「夜更け過ぎ」を、正確に「何時頃」と指すことは難しいですし、また歌詞の世界観もあるので、この言葉は、それぞれの解釈によって異なる文学的な表現と言えるでしょう。