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和歌・短歌

あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む〜意味と現代語訳〜

あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む〜意味と現代語訳〜

〈原文〉

あしびきの山鳥やまどりの尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む

〈現代語訳〉

長く垂れ下がった山鳥の尾っぽのように長い夜を、ひとりでさびしく寝るのだろうか。

概要

作者(ただし、はっきり作者とされる証拠はありません)の柿本人麻呂かきのもとのひとまろは、生没年不詳の『万葉集』の代表的な歌人です。名前の「人麻呂」の表記は、「人麿」と書く場合もあります。

柿本人麻呂の詳しい足跡はわかっていませんが、持統天皇、文武天皇に仕えた宮廷詩人と考えられています。

主な活動時期は、飛鳥時代で、689〜700年頃。山部赤人とともに、歌聖と呼ばれ、称えられている歌人です。

柿本人麻呂の署名が入った和歌は、『万葉集』のなかに、長歌が16首、短歌が75首あり、その他、『柿本人麻呂歌集』の歌とされるものが、300首以上あります。

狩野探幽かのうたんゆう『三十六歌仙額(柿本人麻呂)』

この「あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む」という作品は、『万葉集』『拾遺集』に収録され、百人一首にも入っている和歌です。

この和歌は、はっきりと柿本人麻呂の作という証拠はなく、詩人の大岡信も、「人麿の歌が一般にもっている調子とは大変ちがっている」と書いています。

どうやら『万葉集』の段階では、「ある本の歌に曰く」と、作者不明だった歌が、平安時代以降、柿本人麻呂が作ったものだと言われるようになったようです。

作品冒頭の「あしびきの(あしひきの)」とは、山および山鳥に掛かる枕詞です。

漢字では「足引の」となり、意味としては、「足を引いてあえぎつつ登る」「山すそを長く引く」など諸説があります。

読み方はもともと「あしひき」で、後世になって「あしびき」と濁るようになります。

続く「山鳥の尾のしだり尾の」とは、「山鳥の尻尾で、下に垂れ下がった尾っぽのこと」を意味します。

山鳥とは、キジ科の鳥で、おすの尻尾が非常に長く、昼は雄と雌が一緒にいても、夜になると、一羽一羽が谷を隔ててそれぞれに眠るとされ、「ひとりで眠る寂しさ」を表現する言葉でもあります。

全長125cm(オス)、55cm(メス)。淡い褐色地に黒色と褐色の横縞模様があります。全身赤っぽい褐色で、縦斑があり、下面はやや淡く、腰は白っぽい。目の回りは赤いです。オスでは尾が極めて長く90cmになるものもいます。

メスは尾が短く、しかも楔形をしています。オスは声を出してさえずることは無く、翼を激しくはばたいてドドドドドッ・・・と羽音をたてて、さえずりのかわりにしています。

出典 : 日本の鳥百科「ヤマドリ」

その寂しく一羽で眠る山鳥の長く垂れ下がった尾っぽのように、「ながながし夜をひとりかも寝む」、すなわち、しだれ尾のように長い長い夜を、逢いたい人に逢えることもなく、ひとりで寂しく眠るのだろうか、という意味になります。

最後の「かも寝む」のうち、「か」は疑問の係助詞、「も」は強意の係助詞、「む」は推量の助動詞となります。

また、長い夜とは、秋の夜のことです。

秋の夜長、という言葉もあるように、当時の人々にとっても秋の夜は長く、その夜に、逢いたい人に逢えないことを寂しく思いながら、ひとりで眠っている恋心や情緒を、その和歌の音韻などの表現技法も交えながら深く歌い上げています。

あしびきの山鳥の尾のしだり尾のながながし夜をひとりかも寝む

全体を分かりやすく現代語訳すれば、「長く垂れ下がった山鳥の尾っぽのように長い夜を、ひとりでさびしく寝るのだろうか。」となります。

山鳥の長い尾っぽのように、長い長い秋の夜を、寂しく一人で眠る光景が連想される歌で、「の」が続く音も、この長さを表現することに一役買っていると言えるかもしれません。