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言葉の意味・由来

汚名挽回の意味

汚名挽回の意味

汚名返上と名誉挽回

有名な四字熟語に、「汚名返上おめいへんじょう」という言葉があります。

汚名は、「不名誉な評判」、返上は、「受け取ったものを返すこと」を意味し、その二つを合わせた汚名返上とは、「悪い評判を取り除くこと」という意味になります。部活や仕事でひどい失敗をしてしまった、という「汚名」を、なんとしても「返上」したい、汚名返上のためにも活躍を誓う、といった使い方がされます。

ただ、汚名返上は、それほど古くからあった言葉ではなく、広辞苑に記載されるようになったのも2008年と、意外に最近のことです。

汚名返上という四字熟語が、一体いつから使われるようになったか、正確な由来や起源といったものは不明ですが、一説には、不祥事をリークされた政治家を揶揄するためにワイドショーやスポーツ紙が使っていた、という話もあります。

この「汚名返上」と似たような意味の四字熟語に、「名誉挽回」があります。

名誉挽回とは、「一度傷ついた名誉を取り戻すこと」を意味します。

名誉とは、「優れていることや認められていること、功績」などを指し、挽回とは、「失ったものを取り戻すこと、元へ戻すこと、回復」を意味します。

そうして私は、確かに居心地がよかった。これでよし、いまからでも名誉挽回が出来るかも知れぬ、と私は素直に喜んでいた。

出典 : 太宰治『善蔵を思う』

著作権が切れた作家の作品を掲載している青空文庫で検索すると、名誉挽回は少し見つかるものの、汚名返上は一件もないので、名誉挽回と汚名返上では、名誉挽回のほうが歴史が古いと考えられます。

汚名返上と名誉挽回は、ほぼ同義語として扱われますが、両者の意味には、どんな違いが挙げられるでしょうか。

汚名返上 : 以前の失敗によって受けた悪い評判を取り除くこと

名誉挽回 : 一度傷ついた名誉や失った信頼を取り戻すこと

基本的には似たような意味合いですが、汚名返上では、取り除くものは「汚名」、すなわち悪い評判です。一方の名誉挽回では、取り戻すものは、文字通り「名誉」です。

たとえば、野球やサッカーなどスポーツで好成績を残しているスター選手が、ある重要な試合で芳しい成績を残せず、それから次の試合で大活躍した際には、「名誉挽回」となり、「汚名返上」はそれほど適していないかもしれません。

どちらかと言うと、汚名返上と表現する場合は、「名誉」の有無は問わず、より「失敗(汚名)」のほうに重きを置いた言葉という違いがあると言えるでしょう。

汚名挽回

よく誤用ではないかと指摘される言葉に、汚名返上と名誉挽回が混ざった「汚名挽回おめいばんかい」があります。

汚名挽回は、汚名返上の意味合いで使っているのでしょうが、汚名とは悪い評判のことであり、「悪い評判を挽回する(取り戻す)」という意味になるので、この言葉は間違いだという声も少なくありません。

果たして、この汚名挽回という言葉は、正しい日本語なのでしょうか、それとも間違いなのでしょうか。

一般的な認識では、たとえば、新聞社の調査によれば、「汚名挽回」という言い方が「問題ない」と考える人は極少数で、「違和感はあるが、意味はわかるので許容範囲」という人が15%ほど、「おかしい、汚名返上や名誉挽回としたい」という人が大半となっています。

画像 : 評価は割れるが……使いにくい「汚名挽回」

多くの人が、汚名挽回という言葉に違和感を持ち、おかしいと考えているようです。

一方で、文化庁の調査によれば、汚名返上より汚名挽回のほうが適切だという回答が少し多い、という結果も出ているので、調査対象によって結構なばらつきがあるのかもしれません(参照 : 平成16年度「国語に関する世論調査」の結果について)。

いずれにせよ、汚名挽回は違和感があるという人も少なくなかったり、汚名返上と汚名挽回で意見の分かれる言葉ですが、実際のところはどうなのかと言うと、現在、汚名挽回という言葉は、必ずしも「間違いではない」と考えられています。

たとえば、コトバンクでは、汚名挽回という表現について次のように解説があります。

「返上」とは、受け取ったものを返すこと。不祥事の責任を取って「給与を全額返上」などと言います。「汚名返上」も同じです。評判を落とした人が、努力して評判を回復し、もらった汚名を「いらない」と返すのです。四字熟語としては、わりあい新しいことばです。『広辞苑』では二〇〇八年の第六版から載りました。熟語としての一体感がまだ弱い気もします。

同じ意味のことばに「汚名挽回」があります。これは、よく「汚名返上」の誤用と言われます。「挽回」を「取り返す」の意味と考え、汚名を取り返すのはおかしい、と言うのです。でも、それなら、「劣勢を挽回する」や「不振挽回」「失敗挽回」なども軒並み不可、ということになります。「挽回」には「元どおりにする」の意味があります。「汚名を元どおりにする」と考えれば、「汚名挽回」も問題ありません

「汚名返上」「汚名挽回」は、状況に応じて使い分けるのがいいでしょう。

出典 : 汚名返上|コトバンク

挽回には、元どおりにする、という意味があり、その点では、汚名を被った状態を元どおりにする、というニュアンスになるので、汚名挽回は間違いではない、ということになるようです。

また、昔の本でも、1930年代後半に発表された吉川英治の『宮本武蔵』で、「一時の汚名を将来の精進で挽回してくれ」という一節があり、汚名の状態に戻るという意味ではなく、「汚名を受けたものを、それ以前の状態に戻す」という意味合いで使用されています。

この使い方と似たような事例では、「疲労回復」もあり、これも、「疲労状態に戻る」というわけでなく、「疲労を受けている前の状態に回復する」という意味で使われます。

こうしたことから、現在は一部の辞書でも、「汚名挽回は誤用ではない」と明記されています。

それでは、なぜ汚名挽回が誤用だという声が広がったのでしょうか。

汚名挽回誤用説の起源は、1976年の『死にかけた日本語』ではないかと、三省堂国語辞典編集委員の方は指摘しています。

汚名挽回という言い方は、決して誤用ではないものの、長年の誤用説の影響もあり、違和感を抱く人も多く、その浸透具合も踏まえると、どちらが正しいか、という点は難しい判断のようです。