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日本近現代文学

村上龍『限りなく透明に近いブルー』の冒頭

村上龍『限りなく透明に近いブルー』の冒頭

〈原著〉

飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった。

概要と解説

この『限りなく透明に近いブルー』は、1976年に出版された村上龍さんのデビュー作で、群像新人文学賞、芥川賞の受賞作品です。

単行本と文庫本の合計発行部数は350万部を越え、芥川賞受賞作のなかでは歴代一位となっています。

小説の舞台は、東京の福生市。主人公のリュウは、この街の通称「ハウス(福生市にある横田基地近くにある元米軍の住宅)」で、暴力やクスリ、米軍との交流に明け暮れ、その空虚に流れ、過ぎ去っていく頽廃的な日々を描いた小説です。

思想家の内田樹さんは、この『限りなく透明に近いブルー』について、五感を刺激し、読者を作品世界に招き入れる文体と高く評価。特に、一般的に小説の冒頭文は、視覚情報で描写するのに対し、むしろ『限りなく透明に近いブルー』は、「音と匂いと手触りと舌で感じたもの」で多くが構成されている、と指摘しています。

触覚や嗅覚、味覚や聴覚に訴えかける描写をリアリティを持って書かれると、ぐっと読者を世界に引き込むことができます。

この冒頭文も、「飛行機の音ではなかった。耳の後ろ側を飛んでいた虫の羽音だった」と、聴覚で物語の世界が始まります。

ちなみに、英語訳のタイトルは、『Almost Transparent Blue』。almostと言うと、「ほとんど」という意味で、直訳すれば、「ほとんど透明な青」となります。

ただ、almostの意味をもう少し詳しく見てみると、「ある状態に達する直前まで来ているが、あともう少しのところでその状態に及んでいない」という意味になります。

そのため、ニュアンスとしては、限りなく透明に近いものの、ぎりぎりで透明まではいかない青。すなわち『限りなく透明に近いブルー』ということになるのでしょう。