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雑学

『斜陽』の洋画家は誰か

『斜陽』の洋画家は誰か

太宰治の小説『斜陽』では、主人公のかず子の弟で、自殺する直治の遺書に、唐突に「洋画家」が登場します。

直治は、その洋画家の奥さんの「スガちゃん」を好きになってしまうのですが、この秘密を、姉のかず子にだけ告げるように遺書に綴ります。

しかし、『斜陽』の主要登場人物のなかには、洋画家はいません。存在するのは、「小説家」で直治が慕っている上原二郎です。

それでは、一体直治の遺書に登場する、「洋画家」とは誰なのでしょうか。

はっきりとは明言されていませんが、最後の展開を考えても、これは、直治があえて「洋画家」と濁した、上原二郎のことでしょう。

その辺りのことは、「遠まわしに」「フィクションみたいにして」と遺書でも触れられています。

僕は、その秘密を、絶対秘密のまま、とうとうこの世で誰にも打ち明けず、胸の奥に蔵して死んだならば、僕のからだが火葬にされても、胸の裏だけが生臭く焼け残るような気がして、不安でたまらないので、姉さんにだけ、遠まわしに、ぼんやり、フィクションみたいにして教えて置きます。

フィクション、といっても、しかし、姉さんは、きっとすぐその相手のひとは誰だか、お気附きになる筈です。フィクションというよりは、ただ、仮名を用いる程度のごまかしなのですから。

出典 : 太宰治『斜陽』

なぜ職業を少しだけ誤魔化したのか、直治の気持ちや、作者の太宰治の意図は定かではありません。

直治なりの配慮なのか、それとも彼の貴族的な振る舞いなのでしょうか。また実話(太田静子『斜陽日記』)が元の素材になっていることから、太宰治がフィクションにフィクションを重ねて意図的にぼかす、といった工夫を凝らしたのかもしれません。