雑学

太宰治「ご無事で。もし、これが永遠の別れなら、永遠に、ご無事で。」

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太宰治「ご無事で。もし、これが永遠の別れなら、永遠に、ご無事で。」

太宰治の小説『斜陽』に出てくる言葉に、「ご無事で。もし、これが永遠の別れなら、永遠に、ご無事で。」という台詞があります。

いつがこの人生の最後かわからない、人と人との別れ。「また」と言ったきり、もうずっと会っていない人もたくさんいるなか、こんな心境で「さよなら」を伝えたかったという人も多いのではないでしょうか。

もし、これが永遠の別れであるなら、いつまでも無事で、と。

この台詞は、小説の主人公であるかず子が10代の頃に出会った友人との別れの際、友人が言った言葉で、19世紀のイギリスの詩人バイロンの詩句の引用になります。

そのお友達は、私よりさらに一寸くらい背が高くて、語学がとてもよく出来て、赤いベレー帽がよく似合って、お顔もジョコンダみたいだという評判の、美しいひとだった。

「表紙の色が、いやだったの」

「へんなひと。そうじゃないんでしょう? 本当は、私をこわくなったのでしょう?」

「こわかないわ。私、表紙の色が、たまらなかったの」

「そう」
と淋しそうに言い、それから、私を更級さらしな日記だと言い、そうして、何を言っても仕方がない、ときめてしまった。

私たちは、しばらく黙って、冬の川を見下みおろしていた。

「ご無事で。もし、これが永遠の別れなら、永遠に、ご無事で。バイロン」
と言い、それから、そのバイロンの詩句を原文で口早にしょうして、私のからだを軽く抱いた。

出典 : 太宰治『斜陽』

このとき以来、二人は会うことはありませんでした。

この「ご無事で。もし、これが永遠の別れなら、永遠に、ご無事で。」という言葉は、印象的かつ意味としてもすっと入ってくることもあり、SNSで拡散されることも多い一節ですが、原文は、バイロンが1816年に書いた『FARE THEE WELL(全文)』というタイトルの作品です。

Twitter @MNabeeee

詩の冒頭の一節、“Fare thee well! and if for ever, Still for ever, fare thee well ──”が、「ご無事で。もし、これが永遠の別れなら、永遠に、ご無事で。」に当たります。

おそらく唯一の日本語訳として、1907年出版の児玉花外翻訳『短編バイロン詩集』があり、この訳では、該当部分は次のように翻訳されています。

さらば御身安かれ、これが長への別れならば、
尚ほ長へに、御身安かれ

出典 : 『短編バイロン詩集』36さらば御身安かれ

どうやら他に翻訳がないようなので、『斜陽』に出てくる「ご無事で。もし、これが永遠の別れなら、永遠に、ご無事で。」という一節は、太宰治がオリジナルで翻訳したものなのかもしれません。

ちなみに、詩のタイトルの『FARE THEE WELL』は、別れの際に使う古い英語の表現で、直訳すると「よい旅を」といったニュアンスになる「さらば / さようなら」を意味する言葉のようです。