となりのトトロのポスターの女の子は誰?
数多くの大ヒット作があり、代表作と言うと、なかなか決められませんが、スタジオジブリの宮崎駿監督作品のなかで、最も有名なアニメーション映画の一つが、『となりのトトロ』ではないでしょうか。
映画『となりのトトロ』は、1988年公開で、同じくスタジオジブリの高畑勲監督の『火垂るの墓』と同時上映された作品です(当時の映画館のシステムでは、どちらを先に観るかはお客さん次第でした)。
この映画は、田舎に引っ越してきた草壁一家のサツキとメイの姉妹、そして、子どものときにしか会うことができない不思議な生き物トトロとの交流を描いたファンタジー物語です。
となりのトトロの時代背景は、昭和30年代前半。ただし、宮崎駿監督自身は、特定の時代と決めていたわけではなく、「まだテレビのなかった時代」を描いたようです。
舞台のモデルとなったのは、かつて在籍した日本アニメーションのあった聖蹟桜ヶ丘や、子どもの頃に見てきた神田川、自宅のある所沢、美術監督の男鹿和雄さんの故郷の秋田といった名前が挙がっていますが、2018年発売の『トトロが生まれたところ』によれば、「埼玉の所沢」が舞台と紹介されています。
トトロという名前の由来は、「所沢にいるとなりのオバケ」を縮めたものです。
宮さんという人は、元を正すと、東京のど真ん中で生まれ育ったいわゆる“街っ子”だ。それが結婚を機に、所沢に居を定める。いまから50年くらい前の話だ。そして、家の近くを散策するうちに思いついたのがあの『となりのトトロ』だった。
それが証拠に、最初のタイトルは『所沢にいるとなりのおばけ』で、それが縮んで『となりのトトロ』になった。(鈴木敏夫)
出典 : スタジオジブリ『トトロの生まれたところ』
また、宮崎監督の知人の娘が、所沢を「ととろざわ」と発音していたことに由来するという話もあります。
登場人物の姉妹の名前は、サツキとメイと言いますが、二人とも「五月」という意味です。
日本語では、五月は皐月と表現し、漢字で「五月」自体、「さつき」と読みます。
一方、英語で五月は、Mayです。
一体なぜ、『となりのトトロ』の主要な登場人物で姉妹の名前が「五月」という意味なのか、その理由については分かっていません。
ただ、もともとトトロと交流する女の子は一人の予定でした。
ところが、同時上映予定の高畑監督の『火垂るの墓』が、どうも80分くらいになりそうだと知った宮崎駿監督が、高畑監督への対抗心から、自分ももう少し長くしようと、一人だった女の子を姉妹に変更します。
もともと一人だったはずが、姉妹になったということで、二人とも「五月」という同じ意味合いの名前になったのかもしれません。
『となりのトトロ』上映当時のポスター
上映当時の『となりのトトロ』のポスターやパンフレットでは、雨が降っている「稲荷前」と書かれたバス停の前で、葉っぱを頭に乗せたトトロの隣に、赤い傘を差した女の子が立っています。
この絵は、DVDのジャケットとしても使われています。
描かれている女の子は、メイだったり、サツキだったりと思っている人も少なくないかもしれませんが、よく見ると、どちらでもありません。
トトロの作中に一切出てこない女の子のキャラクターの絵が、ポスターやパンフレット、DVDのジャケットに描かれています。
この女の子の正体は、誰なのでしょうか。
ジブリのプロデューサーの鈴木敏夫さん曰く、この少女は、メイとサツキを組み合わせたような存在だそうです。

ポスター制作に当たり、もともとバス停でトトロと女の子が立っているイメージ図があり、そのときは一人だったものの、登場人物が姉妹になったことから、サツキとメイの二人を立たせた構図に変更しようとします。
しかし、実際に宮崎監督が描いてみると、どうもうまくいきませんでした。一人の方が構図としてもバランスがよかったのかもしれません。
宮崎監督は、二人が立っている絵はどうも違う、と主張したようです。
結果として、サツキとメイを上手に合わせた一人の女の子が描かれることになります。
いよいよ映画を作って、ポスターを描かなければいけないとなりました。もともとバス停でトトロと女の子が立っている絵があったんですけど、その時は姉妹でなくて一人でした。
そこで宮さんはとなりのトトロの隣にサツキとメイの二人を立たせた構図に変更しようとしたのですが描いてみるとなかなか、うまくいかない。
それで、女の子は、メイとサツキの合体になりました。あのポスターの絵をよく見ていただくとわかるんですけど、ヘアスタイル、背の高さ、着ている洋服は、サツキとメイを合わせたもの。
メイちゃんでもないしサツキでもない。宮さん、そういうセンスは、ほんとうに面白いです。
出典 : 鈴木敏夫『天才の思考 高畑勲と宮崎駿』
割と最近の宮崎監督の作品で、2013年公開の『風立ちぬ』という映画があります。
この映画は、堀越二郎という実在した零戦(零式艦上戦闘機)の設計者が主人公のモデルですが、ストーリーは、小説家の堀辰雄の『風立ちぬ』と混ざり合っています。
零戦を設計したのは堀越二郎で、「のちに結核を患う少女」と出会い、婚約するものの死別の経験をしているのは、作家の堀辰雄です。
堀越二郎と堀辰雄、この二人の人物、そして物語と現実とが、絶妙に融合しているのが、宮崎監督の『風立ちぬ』と言えるでしょう。
宮崎駿監督自身、作品のメッセージで次のように書いています。
この映画は実在した堀越二郎と同時代に生きた文学者堀辰雄をごちゃまぜにして、ひとりの主人公“二郎“に仕立てている。後に神話と化したゼロ戦の誕生をたて糸に、青年技師二郎と美しい薄幸の少女菜穂子との出会い別れを横糸に、カプローニおじさんが時空を超えた彩どりをそえて、完全なフィクションとして1930年代の青春を描く、異色の作品である。
なぜ堀越二郎と堀辰雄が混ざったのかよく分かりませんが、全く違和感がなく、一人の人物、一つの作品になっていることに驚きます。
この辺りも、鈴木敏夫さんが語っているような宮崎駿監督の「そういうセンス」の面白さと言えるのかもしれません。
ちなみに、トトロのポスターで言えば、数年前に、中国で『となりのトトロ』のデジタルリマスター版上映開始に当たり、公開されたポスターのデザインが素敵だと話題になりました。
黄海『となりのトトロ』の中国版のポスター
このトトロのポスターのデザインを担当したのは、中国のデザイナーの黄海さんです。
また、『となりのトトロ』は中国語版だと、『龍猫』というタイトルとなっています。読み方は「ロンマオ」です。
黄海『千と千尋の神隠し』の中国版のポスター
黄海さんは、ジブリ作品では、他に『千と千尋の神隠し』のポスターデザインも担当しています。
現実社会の中で孤独で、どんなに寂しかったとしても、心に愛と善良さと美しいものを持っていれば、神々はそばで守ってくれる。ハクも、カオナシも、彼女のそばにいる人たちも、みんな彼女の心の中に存在しているんです。
黄海さんの手掛けたポスターについては、『千と千尋のポスターを制作した黄海の作品一覧』に詳しく掲載されています。