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日本古典文学

枕草子「うつくしきもの」現代語訳

枕草子「うつくしきもの」現代語訳

平安時代中期の作家、歌人の清少納言が綴り、日本三大随筆の一つに数えられる『枕草子』には、「うつくしきもの」という段があります。

古語の「うつくしい」には、「愛らしい、かわいい」という意味があり、「うつくしきもの」とは、「小さく可憐で愛らしいもの」という意味です。

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この『枕草子』の「うつくしきもの」でも、清少納言が日常で出会った「可愛らしい」と思うものの例が、いくつもいくつも並べられています。

「うつくし」とは、もともと、親子、夫婦などが、おたがいをいとしく思う、肉親の情愛をあらわすことばだった。平安時代になると、それは、小さく可憐なものへの愛に変わり、かわいらしい、愛らしいという意味になった。

出典 : 枕草子 うつくしきもの|ジャパンナレッジ

最近では、日本語の「Kawaii」という言葉が、海外でも知られていますが、今の感覚と照らし合わせても、大いに通じ合うものがある、平安時代の「可愛らしい」という感受性が、『枕草子』の「うつくしきもの」からは感じ取ることができます。

以下は、『枕草子』の「うつくしきもの」の原文と現代語訳になります。

うつくしきもの。瓜にかぎたるちごの顔。すずめの子の、ねず鳴きするに踊り来る。二つ三つばかりなるちごの、急ぎてはひくる道に、いと小さきちりのありけるを目ざとに見つけて、いとをかしげなる指にとらへて、大人などに見せたる。いとうつくし。頭は尼そぎなるちごの、目に髪のおほへるをかきはやらで、うちかたぶきてものなど見たるも、うつくし。

【現代語訳】かわいらしいもの。瓜に描いてある幼児の顔。雀の子が、人がねずみの鳴き真似をすると、踊るようにしてやってくること。二、三歳くらいの幼児が、急いで這ってくる途中に、ほんの小さなちりがあったのを目ざとく見つけ、とても愛らしい指でつまみ、大人などに見せている様。髪型を、尼のように肩の高さで切り揃えた幼児が、目に髪が覆いかぶさっているのを払いのけることもせずに、首をかしげて物などを見ている様子なども、かわいらしい。

大きにはあらぬ殿上童の、装束きたてられてありくもうつくし。をかしげなるちごの、あからさまにいだきて遊ばしうつくしむほどに、かいつきて寝たる、いとらうたし。

【現代語訳】大きくはない殿上童てんじょうわらわ(見習いで昇殿している貴族の子弟)が、立派な装束を着せられ歩いているのもかわいらしい。可愛い幼児が、ほんのちょっと抱いて遊ばせてかわいがっているうちに、しがみついて寝ているのも、とてもかわいらしい。

雛の調度。蓮の浮葉のいとちひさきを、池より取りあげたる。葵のいとちひさき。なにもなにも、ちひさきものはみなうつくし。

【現代語訳】雛人形の道具。はすの浮き葉でとても小さいのを、池から取り上げたもの。葵のとても小さいもの。なにもかも、小さいものはみなかわいらしい。

いみじう白く肥えたるちごの二つばかりなるが、二藍の薄物など、衣長にてたすき結ひたるがはひ出でたるも、また短きが袖がちなる着てありくもみなうつくし。八つ、九つ、十ばかりなどの男児の、声はをさなげにて書読みたる、いとうつくし。

【現代語訳】ひじょうに色白で太っている二歳ぐらいになる幼児が、紅花と藍で染めた薄い絹の着物など、丈が長く袖を紐で結びあげたのが、這い出しているのも、また短い着物で袖だけが大きく目立っている様子で歩いているのもかわいらしい。八、九、十歳ぐらいになる男の子が、子どもっぽい声で書物を読んでいるのも、とてもかわいらしい。

鶏の雛の、足高に、白うをかしげに、衣短なるさまして、ひよひよとかしかましう鳴きて、人のしりさきに立ちてありくもをかし。また親の、ともに連れて立ちて走るも、みなうつくし。雁の子。瑠璃の壺。

【現代語訳】鶏の雛が、足が長く、(羽の)白くかわいらしげに、丈の短い着物を着ているような姿で、ぴよぴよとやかましく鳴き、人の前や後ろに立って歩いているのもかわいらしい。また親鳥が一緒に連れ立って走っているのも、皆かわいらしい。それに雁の雛。瑠璃の壺。

途中に「なにもなにも、ちいさきものはみなうつくし(なにもかも、小さいものはみんな可愛らしい)」と記されているように、「うつくしきもの」と思う眼差しは、どれも「小さなもの」に向けられています。

その代表的な例が、「幼い子どもたち」であり、文章内には、幼児たちの可愛げな様が繊細に描写されています。

冒頭の「瓜に描いた幼児の顔」というのは、誰かが瓜に子供の顔を描いたのでしょうか。

顔が描いている理由については、当時、贈答用のフルーツに子供の顔を描いて贈る風習があったそうです。

また、二、三歳の幼児が這い這いしてくる途中で、小さなほこりのようなものを見つけ、指でつまみ、大人に見せる様子も描写され、想像するだけで可愛らしさが伝わってきます。

その他、おかっぱにしている子供が、目に髪が覆いかぶさっているのに、払いのけず、首を傾げて何かを見ている様。

まだそれほど大きくない、作法見習いの子が立派な着物を着せられている様。

幼児を抱っこして遊ばせているうちにしがみついて寝ている様。

少年が子供っぽい声で書物を読んでいる様など、今の感覚にも通じる「うつくしきもの(可愛らしいもの)」がたくさん盛り込まれている一段です。

以下は、「うつくしきもの」で例として挙げられている可愛らしい物事の一覧となります。

枕草子のうつくしきもの一覧
  • 瓜に描いてある幼児の顔。
  • 雀の子が、人がねずみの鳴き真似をすると、踊るようにしてやってくること。
  • 二、三歳くらいの幼児が、急いで這ってくる途中に、ほんの小さなちりがあったのを目ざとく見つけ、愛らしい指でつまみ、大人などに見せていること。
  • おかっぱの髪型の幼児が、目に髪が覆いかぶさっているのを払いのけることもせずに、首をかしげて物などを見ていること。
  • まだ決して大きくはない作法見習いの子が、立派な服を着せられ歩いていること。
  • 可愛い幼児を抱いて遊ばせてかわいがっているうちに、その子がしがみついて寝ていること。
  • 雛人形の道具。
  • 池から取り上げた、とても小さい蓮の浮き葉。
  • とても小さい葵。
  • たいそう色白でふっくらした二歳ぐらいの幼児が、紅花と藍で染めた薄い絹の着物などを、丈が長く袖を紐で結びあげたのが、這い出していること、また短い着物で袖だけが大きく目立っている様子で歩いていること。
  • 八、九、十歳ぐらいの男の子が、子どもっぽい声で書物を読んでいること。
  • 鶏の雛が、足が長く見えて、羽が白くかわいらしげに、まるで丈の短い着物を着ているような様子で、ぴよぴよとやかましく鳴き、人の前や後ろに立って歩いていること。また親鳥が一緒に連れ立って走っていること。
  • 雁の雛。
  • 瑠璃の壺。

子供だけでなく、小鳥や植物、はたまた雛人形の道具や瑠璃の壺など、清少納言と、当時の日本人の小さなものへの「かわいい」という感受性が伺える文章です。

以上、『枕草子』の「うつくしきもの」の意味と現代語訳でした。