使い方に違和感? 「全然大丈夫」は誤用か
主に若者のあいだで、「全然大丈夫」「全然いいよ」「全然平気」「全然OK」といった言葉遣いをする場合があると思います。
もしかしたら、この「全然」の使い方に違和感があるという人もいるかもしれません。
たとえば、「全然」は、「全然美味しくない」「全然できない」といったように、「全然+否定」が正しい使い方で、「全然+肯定」は、「誤用」だと一般的には思われているのではないでしょうか。
しかし、実際は、「全然+肯定」という表現は、必ずしも誤用とは言えません。
たとえば、昭和10年代の文献を調べると、半数以上が、「全然+肯定」という組み合わせだったようです。
採集した「全然」の用例を分類したところ、全590例のうち6割の354例が肯定表現を伴い、そのうち約4分の1に当たる85例が否定的意味やマイナス評価を含まない使い方となっていました。
その事例のなかには、著名な国語学者である金田一京助の書いた文章の一節、「前者は無限の個別性から成り、後者は全然普遍性から成る」も含まれています。
この頃には、特に「全然」に「本来否定を伴うもの」という縛りはなく、明治から戦前までは、肯定も否定も問わず使用されていたようです。
ところが、戦後まもなく、昭和28〜29年(1953〜54年)頃から、「全然が正しく使われていない」といった記事が現れるようになり、その辺りから、「全然」は否定を伴うもの、という迷信が広がっていったのではないかと考えられています(正確な変化の経緯は分かっていません)。
いずれにせよ、「全然」は、本来、「残るところなくすべて。まったくそうであるさま」といった意味で、肯定表現が続いても誤用ではありません。
ただし、ビジネスマナーや敬語としては、「全然大丈夫です」といった言い方は、問題があるとみなされる可能性もあるので注意しましょう。
一方、誤用という点で言えば、「全然」が、昨今(と言っても、昭和30年代には登場していたようですが)では、「とても」「非常に」という意味で用いられることもあり、こうした意味で使う場合は、必ずしも本来の意味と比較した場合、「正しい」とは言えないかもしれません。
『日国』の編集委員の松井栄一氏は、「全然」には「全然おもしろい」のように「とても」という意味が新たに広まりつつあると指摘している(『「のっぺら坊」と「てるてる坊主」』小学館2004年)。
筆者自身もこのような使い方を不自然だと感じる一人である。
日本語の規範性ということを考えるのであれば、「全然」の場合はあとが否定か肯定かということよりも、「すべて」という本来の意味で使われているのか、新しく生まれた「とても」の意味で使われているのかということの方が重要な問題なのである。
こういう点から見れば、「全然大丈夫」「全然OK」「全然いい」「全然平気」という使い方は可能でも、「全然面白い」「全然美味しい」というのは、違和感を覚える人もいるのかもしれません。
たとえば、「全然大丈夫」や「全然平気」は、「全く大丈夫」「全く平気」と言えるでしょうが、「面白い」や「美味しい」につく場合、度合いを表現することになり、「非常に」というニュアンスになります。
この辺りが、本来の意味からすると、違和感を抱く、ということなのでしょう。
とは言え、俗語として、「とても」「非常に」という意味もある、と辞書にも記載があるので、これも完全な「誤用」とも言い切れないでしょう(ただ、教育の現場では、好ましくないとされる場合もあるようです)。
以上、「全然大丈夫」という表現は誤用か否か、という問題に関する解説でした。