心理

好きだったのに嫌いになる「蛙化現象」の意味と名前の由来、原因とは

好きだったのに嫌いになる「蛙化現象」の意味と名前の由来、原因とは

蛙化現象の意味とは

複雑な心理が絡み合う恋愛、その恋愛に関する心の模様を表し、少し前から話題になっている言葉に「蛙化かえるか現象」があります。

読み方は、そのまま「かえるかげんしょう」と言います。

蛙化現象とは、「好きだった人から告白されたり付き合ったりすると、ずっと好きだったのに嫌いになる、相手のことが気持ち悪い、生理的に拒否反応が生じるようになる現象」を意味します(これは公式な病名などではありません)。

実用日本語表現辞典では、次のように「蛙化現象」が説明されています。

蛙化現象とは、片思いの相手から好意を返されると相手に対して嫌悪感を抱いてしまう、両思いになった途端に恋愛感情が冷める、という心理的な傾向を意味する言葉である。10代女子などにしばしば見られる傾向とされる。

出典 : 実用日本語表現辞典

一般的には、男性にせよ、女性にせよ、中学生や高校生など思春期のティーンエイジャーにせよ、あるいは大人にせよ、恋をしたら、その目的地として、手を繋ぎたい、一緒にいたい、両思いになりたい、付き合いたい、結婚したい、といった願いを抱く人が多いのではないでしょうか。

ところが、ずっと好きだったのに、両思いになったり、告白されたり、といったことがあると、まるで急に恋の熱が冷めるように、好きだったものが嫌いになる、という一見すると不思議な状態が「蛙化現象」です。

意味わからん、そんな人はいないでしょ、と思う人もいるかもしれませんが、実際、この二、三年で蛙化現象という言葉は検索される数も一気に増え、若い女性を中心に浸透しています。

もちろん、なかなか出会いがなく、好きな人ができない、または恋愛自体に興味がない、別に今は彼氏彼女はいらない、一人が好きで趣味や仕事に没頭したい、といった人は、決して少なくありません。

恋愛が人生の全てではありませんし、そのこと自体は全く変なことではないでしょう。

一方で、蛙化現象は、別に恋愛に興味がないというわけではなく、好きな人自体はいるし、恋人になりたい、という願望もある。場合によっては、好意を持ってもらえるようにアプローチもする。

しかし、その恋心が実り、向こうからも好意を向けられると、途端に相手のことを気持ち悪いと思う、嫌いになる。

単純に、恋人のことをずっと好きだったのに、浮気や喧嘩など何かのきっかけで冷めて嫌いになる(女性の場合は、月経前症候群PMSと呼ばれる生理前のホルモンバランスの乱れによる精神面への影響の一環として、急に彼氏が嫌いになることもあるので注意しましょう)という現象とは違い、好意を向けられることによって嫌いになる、というのが「蛙化現象」の特徴です。

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それでは、この蛙化現象の背景には、一体どんな心理や原因が隠されているのでしょうか。

細かい説明の前に、まずは、「蛙化現象」という名前の由来についてわかりやすく解説したいと思います。

蛙化現象の名前の由来

蛙化現象という一風変わった名前は、一体どういったことに由来するのでしょうか。

この名前は、グリム童話にある『かえるの王様』という話に由来します。『かえるの王様』は、『かえるの王さま、あるいは鉄のハインリヒ』『かえるの王子(様)』『かえると金のまり』という名前でも知られている物語で、1812年のグリム童話初版からずっと巻頭を飾るお話です。

オットー・ウベローデ『Der Froschkönig』 1907年

名前の由来である、この『かえるの王様』のあらすじは、以下の通りです。

ある国の王女が、森の泉に、金のまりを落としてしまいました。

そこへ蛙が通りがかり、「自分を王女様のお友達にしてくれて、隣に座って同じ皿から食事を取って、あなたのベッドで寝かせてくれるのなら、拾ってきてあげよう」と申し出ます。

王女は、条件を飲んで蛙と約束するのですが、蛙が泉から金の鞠を取ってくると、約束を破って蛙を置き去りにし、城に帰っていきます。

城に帰った王女が家族と食事を取っていると、蛙が再び現れ、約束を守るように要求します。

王女から事情を聞いた王さまも、王女に蛙との約束を守るように命じ、その命令に従って、王女は蛙と食事し、その後、泣きながら抵抗するも蛙と一緒に寝るためにベッドに向かいます。

最初、王女は、蛙を寝室の隅に置き、一人で眠ろうとします。しかし、蛙から、「私をベッドにあげてください、さもなくば王に言います」と抗議を受け、ついに腹を立てた王女は、ののしりながら蛙を壁に叩きつけようとします。

すると、その瞬間、魔法が解け、蛙の姿が王子に変わります。そして、まもなく、王女は、蛙だった王子と婚約することになります。

以上が、『かえるの王様』の簡単なあらすじです。この物語が、蛙化現象という名前の由来となっています。

ただし、由来となったこの童話は、もともと王女にとって嫌いだった存在の蛙が、壁にたたきつけようとした瞬間、王子様に姿を変え、結果として二人は結婚する、という話なので、言ってみれば、「嫌いだったのに好きになる」物語です。

一方の蛙化現象の場合は、「好きだったのに(告白されたり、付き合ったら)嫌いになる」ものなので、元ネタとなっている物語とは逆の現象と言えるでしょう。

ちなみに、「蛙化現象」を英語で表現しようと思っても、当てはまる言葉はありません。

英語では、似たような心理状態や指向を意味する言葉に「リスロマンティック」があります。

蛙化現象とリスロマンティックの特徴

蛙化現象に近い海外の表現としてはリスロマンティックがあり、蛙化現象とリスロマンティックの違いとしては、リスロマンティックのほうが、より幅広い意味合いを持った概念となっています。

リスロマンティックとは、「相手に恋愛感情を抱くものの、相手から恋愛感情を抱くことを求めない恋愛指向」を意味します。

実際は、もう少し細かく見ると様々な形があり、たとえばリスロマンティックの特徴として、次のような点が挙げられます。

・恋愛関係になる必要性を感じない。

・恋愛感情を重要なものだと感じることができない。

・恋愛を嫌悪している。互いに愛を表現しあいたいと望む理由がわからない。

・恋愛を恐れている。恋愛恐怖症。恋愛で相手に心を開くことが怖い。

・プラトニックな関係を求めている。

・恋愛感情を一時的に持つにも関わらず、ある段階に達すると消える。

・身体的接触(性的ではないものも含む)が嫌いで、恋愛的な触れ合いをしたくない。

・二次元など非実在のキャラクターが好き。非実在キャラから恋愛感情が返ってくることはなく、非実在キャラへ熱狂している場合は、気持ちを返されること自体を不快に感じることがある。

・恋愛含め、どんな関係性も望んでない。他人と関係を育む、と考えると、不快な気分になる。

・告白されたり、どう思っているの、と言われたら途端に好きではなくなる。

・自分の恋愛感情を誰にも教えず、完全に秘密にしておきたい(告白するのが怖いからではなく、相手に気持ちを返されたくないゆえに)。

・恋愛ではなく、性的に惹かれることの方が先にくる。恋愛のパートナーより肉体的な関係を求めている(あとから恋愛感情が発生することもある)。

参照 : リスロマンティックと語り口の問題

最近では、「推し」と呼ばれる、「ファン」と似た用語も一般化していますが、この「推し」に対する感情も、ある種、リスロマンティック的な感覚に近いのかもしれません。

リスロマンティックの分かりやすい解説としては、漫画を用いた記事『リスロマンティックとは? 好きだけど両思いになりたいわけじゃない!』がおすすめです。

数々のリスロマンティックの特徴のうち、「好きだったのに好かれると嫌いになる、気持ち悪いと感じる」という部分を特に取り出したものが、「蛙化現象」であると言ってもいいかもしれません。

日本では、リスロマンティックよりも、どちらかと言うと蛙化現象のほうが注目されている傾向にあります。

蛙化現象の曲。

好きだったのに告白されると突然嫌いになる、というのは、一見すると自分勝手に見えるかもしれません。

しかし、蛙化現象の心理や葛藤について歌った、たかやんさんの『蛙化現象』という曲を歌詞と一緒に聴くと、蛙化現象の苦しみも伝わってきます。

一般的に言えば、メンヘラと称されるかもしれないほど、どっぷり浸かって恋愛や未来に希望を持ちながら、次の瞬間、恐怖感や自己嫌悪に襲われる心情が描写されています。

たとえば、“あの頃あなたは王子のようだった  「伝わるといいな」 って私の思いが  ずっとアプローチしてたのに  なんでだ?  振り向いた途端怖くなってる”や、“近づかないでよマジでキモい  もう貴方のことは好きじゃない  わかってるよ私は超ウザい  ダサい私自身殺したい”という歌詞があります。

この歌詞からも、冷静にこういう理由で「嫌いになる」ということではなく、「マジでキモい」といった激しい拒絶感が湧き、恐怖感や自己嫌悪といった情緒不安定な精神状態になっている様子が分かるのではないでしょうか。

このたかやさんの『蛙化現象』の曲は、再生回数が100万回を越え、コメント欄にも、数多くの共感の声が書き込まれています。

もし曲やコメント欄の心情に共感できるようなら、蛙化現象の要素があると言えるでしょうし、その他、蛙化現象の診断テストとして、「好きな人が気持ち悪い? 蛙化現象診断|マイナビウーマン」や、「蛙化現象タイプ診断チェックリスト|蛙化現象がわかる心理テスト」などもあります。

蛙化現象の原因

さて、この好きだった人から好かれると嫌いになる、という蛙化現象の原因としては、どういった心理的要因があるのでしょうか。

主に、以下のような原因が挙げられるでしょう。

自己肯定感の低さ

蛙化現象の代表的な原因としては、「自己肯定感の低さ」が挙げられます。

自己肯定感が低く、そもそも自分のことが気持ち悪い、嫌いと思っていることから、こんなに気持ち悪い自分を好きになるような人に対しても、重ね合わせるように拒絶反応を抱く。

こんなに気持ち悪い自分を好きになるなんて、ほんとに気色が悪い、という感覚でしょう。

自分自身、大嫌いな自分のことを好きな人が好きになってくれるなら、その想いによって自己肯定感が満たされ、むしろ余計に嬉しく思う場合も多いはずですが、自己嫌悪が強すぎると、逆に向かってしまうこともあります。

これは推しやファンなどで考えるとわかりやすいかもしれません。

自分のことを気持ち悪く、暗い場所の人間だと思っている人にとって、あの人は、遠くで光っている存在だからこそ憧れ、惹かれる。でも、その遠い存在が、「私」を好きになったということで、一気に身近なものとして捉えられ、まるで自分自身を否定するように熱も冷める。

この自己肯定感の低さによって生じる「好いてくれる存在」への嫌悪が、蛙化現象に繋がります。

理想の幻滅

蛙化現象に陥ってしまう原因として、「理想の幻滅」という要素もあります。

片思いのときや、恋愛経験が少ないと、好きな人や恋人関係というものを過剰に美化し、頭のなかで理想が膨らんでいきます。

ところが、実際は、相手も神さまや王子さまではなく一人の人間です。また、恋人として付き合うということは、試練も多く、話し合いや喧嘩もあり、必ずしも、全てが「理想の楽園」というわけではありません。

未熟な者同士が、幸福な時間を過ごし、ときに話し合いも重ねながら、一緒に築いていくということが恋人関係です。

しかし、つい「理想」が膨らみ、最初から完璧な完成品が届くと思っていると、「思っていたものと違う」となり、すぐに冷める、ということに繋がる。

こういった理想の幻滅も、蛙化現象の原因の一つと言えるでしょう。

肉体関係の嫌悪

蛙化現象の原因には、「肉体関係の嫌悪」が関わっている場合もあります。

片思いの好きな人というのは、先ほども触れたように、理想や夢の世界の住人であり、この遠い憧れの存在が、恋人となり、肉体関係になるということを考えると、一気に生々しく、現実的になり、その肉体関係への拒否反応が、そのまま「嫌い」という感情に向かっていきます。

美しいものは遠くから見ていたい、という感覚自体が、自己肯定感の低さとも相まって、蛙化現象的な心理になるのでしょう。

傷つくことを恐れる

理想の幻滅に近いかもしれませんが、蛙化現象の原因に「傷つくことを恐れる」という要素もあります。

恋愛とは、どうしても夢の世界だけでなく、現実的な側面があり、現実は、傷つくことと切っても切り離せません。

過去の恋愛のトラウマや、あるいは、初めての恋人であれば不安ゆえの臆病さから、傷つくことを恐れ、無意識のうちに、両思いになった途端、心を閉ざしてしまうこともあります。

男性と女性

ところで、蛙化現象は、男性と女性のどちらに多いのでしょうか。

男女差で見れば、一般的には、女性のほうが多いと考えられています。

男性でも、確かに好きな人が手に入った瞬間去っていく、といった蛙化現象に見えるような傾向のある人はいます。ただ、これは上記で説明したような「好きになられたから嫌いになる、相手を生理的に気持ち悪いと感じる」という特徴を持った蛙化現象とは言えません。

また、その点で言えば、蛙化現象というのは、思わせぶりを振りまき、色々な相手との恋を娯楽的に楽しむ「魔性の女」でもありません。

あくまで、好きになられることで相手を嫌いになる、しかも、自己嫌悪などが付随し、恋愛を純粋に楽しむことができない、という葛藤があります。

基本的には、若い女性に多いでしょうが、もちろん、男性にも一切ないというわけではなく、男女ともに蛙化現象はあると言えるでしょう。

ただし、傾向としては、10代、20代といった若い女性に多いと考えられます。

治し方

本人が、気にしていないのであれば問題ありませんが、自己嫌悪に陥り、苦しい、治したい、と思っているようなら、蛙化現象を克服するための治し方のようなものが必要になってきます。

基本的に、蛙化現象には、特効薬のようなすぐに改善される治し方というのはありません。

ただ、年齢的に、中学生や高校生といった思春期の頃であれば、まだ経験不足であったり、他人の目を気にして劣等感に悩んだり、精神的に不安定になることも多いので、それほど不安に思うことはなく、ある程度大人になっていくと自然に収まっていくことも少なくないでしょう。

もし、大学生や社会人など、もう少し大人になっても蛙化現象が苦しい場合には、自分自身でも動き出す必要があり、たとえば、まずは一人でも満足できるような趣味を充実させる、ということが重要です。

自己肯定感の低さというのは、周りとの比較によって湧き上がってしまうので、そういう比較から離れること、たとえば軽くからでもランニングを始める、といった一人でできる運動などもよいでしょう。

自分で自分を満たすことのできる習慣や目標ができると、その達成から、自己肯定感が高まることもありますし、他者との比較ばかりに目がいくことからも距離を置くこともできます。

運動だけでなく、食生活を考えるなど、自分磨きにも繋がることであれば一石二鳥になります。

焦らず、恋愛は、そのあとでもよいかもしれません。

SNSも、ほどほどにすることをおすすめします。SNSに依存してしまうと、どうしても、あの人は可愛いな、幸せそうだな、それに比べて自分は、という誰かとの比較に日々追われることになるので、インスタやツイッター、TikTokなどは控えるというのも一つの方法です。

他に、友達関係から恋愛に発展していく形なら、理想の幻滅という部分も少なく、もう少し自然と恋人関係に移行できるので、時間をかけて友情関係を築いていく、あるいは、すでに友人のなかで、この人ともうちょっと一緒にいたいな、と思ったら、その人のことを恋人として意識してみる、というのもよいかもしれません。

また、恋愛経験を重ねる、というのも大事です。ただ、経験を重ねると言っても、短いあいだに「付き合っては別れて」を繰り返すことは、決して「経験を重ねる」ということにはなりません。

もし思っていたのと違うと思っても、いったん立ち止まり、お互いに話し合いを重ねたり、試行錯誤を繰り返したり、といったことを、根気強く行っていく、ということを心がけるとよいでしょう。

こうした方法が、蛙化現象の治し方として挙げられるので、よかったら試してみましょう。

以上、蛙化現象の意味や名前の由来、原因などでした。